第36話 幼女は、新聞記者の正体を推理する

 つまり、あの新聞記者はバッタモン……関西弁で「ニセモノ」だってことである。

 

「アトキン、どうしますか? 処しますか?」


 クゥハの目が、据わっていた。やる気だ。


「ええから。敵やったら、とっくに態度に出しているやろ」


 敵対勢力なら、なんらかの罠を仕掛けている可能性が高い。村人に取り入って、こちらが不利になる情報を得たり、悪評を振りまいてセルバンデス王国との連携を狂わせたり。

 だが王都にもテネブライにも、そんな報告は上がっていない。記者たちは、淡々と取材をしていたという。


「カニエ、ポーレリアがテネブライに用事があるとしたら、なんやろ?」

 

「特産品の独占……は、考えにくいですね」


 聞いたところ、ポーレリアの畜産品は繁盛している。王都が買いに来るくらい、ポーレリア産の牛肉は人気だ。王都同士の連携を取って、ブランドにまで指定されている。


 ウチもポーレリアビーフを食べてみたが、ガッツリしていてうまい。肉厚で噛みごたえがある。「柔らかい肉を好むのは日本だけ」、というだけあった。


「ですがあそこは、フルーツに関しては弱いです。テネブライと違って」


「テネブライって、そこまで果物が強いん?」

 

「麻薬レベルで、大人気です。中毒性が高いと」


 ウチはただ、【赤い実】の品種を、甘くて美味しいものに変えただけなのに。酸っぱいだけだった【黄色い実】も、甘酸っぱい清涼飲料水みたいな味に変化させた。


「……アトキンはもっと、自分のやっていることに責任を持つべきだと思いますよ」


「クゥハさんの言うとおりですよ、先生。自分の研究が社会的に影響を及ぼす、って自覚がなさすぎです」


 クゥハとカニエ、両方から責められる。


「キャハハ! アトキン、怒られてやんの」


「まあまあ。みんな落ち着いて」


 ウチは、メフティをヒザの上に乗せる。メフティの大きなオシリだって、気にしない。


「可能性があるとしたら、ポーレリアに化けた【ダゴン】の手下って線がありますねぇ」


 クゥハが、物騒なことを言い出す。


「まさか。それやったら、もっと巧妙に隠すやろ」


 襲撃する気満々なら、あそこまで好意的に接することはない。それこそ、ウチのオフなんて取材しないだろう。

 調べるとしたら、「兵装」、「具体的な人口とそのうちの兵力」、「冒険者ギルドの規模」、「王都以外のパイプがあるか」などだ。それこそ図々しく、くまなく色々と聞いて回るだろう。

 

 ウチは、オフなんてほんの数時間くらいだ。たいていは、自室で研究に明け暮れている。研究所を開けるときは、探索か買い物だ。


「ですよねえ。取材としては、あまりにもユルすぎますよね」


 あんな見え見えのリポートじゃなくて、より悟られないようにするはず。それこそ、新設したギルドに冒険者として潜伏するとか。


 とはいえ、不審な動きはまったくなかった。

 ポーレリア雑誌社が、ギルドを取材をしていたのは事実である。しかし、どこのギルドと変わりがないため、特に収穫はなかったはずだ。

 

「よっしゃ、遠征しょうか」


 わからないなら、ウチが乗り込めばいい。

 

 お向かいさんが妙な動きをしているなら、こちらが遊びに行けばいいのだ。

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