第26話 幼女(バッタモン)は、幼女(ガチ)と荒野を目指す

 カニエとメフティには、キャンピングカーのような移動型馬車に乗ってもらった。この中で、ゴーレムを動かしてもらう。

 

 クマのぬいぐるみ型ゴーレムを操りながら、メフティがウチについてくる。


「よっしゃ、ちゃんとついてきてるな。メフティ、調子はどうや?」


 ウチは遠目から、メフティの様子をうかがう。はぐれないようにしつつ、ウチはあえて遠ざかっていた。ちゃんとメフティがウチのサポートがなくてもついてこられるか、テストも兼ねている。いざとなったら、個人の判断が必要になってくるからだ。


「バッチシ。アトキンも、その姿が似合ってるぞ」


 ウチはメフティの前で、本性を現した。触手幼女の姿を披露する。

 引かれると思っていたが、メフティはまったくそんな素振りを見せない。むしろ人間態のときより、親しみを持って接してくる。


「ウチの正体がモンスターでも、ええんか?」


「モンスターでも、アトキンはアトキンだぞ」


「ええ子や」


 メフティは、魔物と人間族を区別しない。魔物と距離が近いドワーフだからか、それとも本人の性格ゆえか。


「メフティは普段から、魔物と交流させているからな。敵味方識別に関しては、優れているはずだぞ」


 馬車の手綱を握りながら、父親であるベヤムがメフティを褒める。

 亜人を差別しないのは、メフティ自身の意志が故か。


 もともとこの世界って、亜人に対して寛容なのもある。


「ほな行こか」


 川沿いに歩いて、荒野エリアへ向かう。荒野エリアまで、川を通したのだ。


「見えてきたで」

 

 森林エリアのギリギリまでのポイントに、別荘を建てておいた。カニエを光やエリアに連れて行ったときに、設置したものである。


 この小屋は、いざというときの避難所として建てた。魔物に襲われないように、大木に擬態させてある。

 小屋の中は、休憩所と台所などの生活空間を設置しておいた。ムカデ亜人たちも一部住まわせているので、食事面も万全だ。


 キャンカー型馬車を、小屋の側に止めた。


「メフティとカニエは、ここで待機な」


 二人を小屋に残して、荒野エリアに入り込む。川の水を通せれば、飲料水には困らないはず……。


「アカン」


 荒野に入った途端、川の水がにごり始める。瘴気に触れたからだろう。


 水場があっても、安心はできないな。このエリアを開放して、水を浄化せねば。もしくは森林エリアにあった滝のような、ヒーリングスポットが必要だ。


「敵ですよ。アトキン」


 クゥハが差した方角から、大量のスケルトンが。その群れは、地面を覆い尽くすほどだ。

 荒野をさまよって干からびた魔物たちが、スケルトン化したか。


 スケルトンなら、ウチも使役している。


 このエリアのボスが、ウチの侵入にようやく気がついたらしい。

 

「おし。メフティ、初戦闘や。きばりや」


 ウチが合図をすると、メフティの操っているゴーレムがガッションガッションと拳を叩く。


『おおおおー、ぶっとべー』


 メフティが、ゴーレムの腕を振り回した。ラリアット気味に、鋼鉄の腕でスケルトンの集団を薙ぎ払っていく。


 スケルトンたちが、粉々に砕け散った。


 メフティはタンク職として活躍させるつもりだったのだが、特攻隊長でもいいかも。これだけうごけるなら、ダメージソースとしてもいける。

 

 ひとまず、この一帯のモンスターは、メフティの敵ではない。


「ほんなら、死んでや」


 ウチは、地面にアリ地獄を巻き起こす。


 流砂に、スケルトンたちが飲み込まれていった。


 石や岩も混ぜて、ウチはスケルトンたちを入念にすり潰す。復活はさせない。


「どうや、カニエ、メフティ。体力の方は、まだ持つか?」


『問題ありません、アトキン先生。メフティちゃんも、無事です』


 カニエに続き、メフティも『おーっ』と返答する。


 声の調子からも、特に危なっかしさはない。


「戦闘の具合やけど、調節しておきたいところとかはあるんか?」


『特にないかなー? いつもどおり動けているぞ』


 そうかそうか。クゥハの教え方が、超絶うまいのだろう。ウチだったら、つい理屈っぽくなって頭に入らなかったかも。感覚で教えてくれるクゥハのほうが、メフティのコーチに向いている。

 カニエに魔法を教える感覚では、イカンということだ。


「クゥハ、ダンジョンの気配とかは、わかるやろか?」


「さっき大量の魔物が襲ってきましたよね? その気配から、あの遺跡が怪しいなと」


 荒野の奥に、それらしき遺跡の気配があるという。

 

「たしかに、これは遺跡やで」


 崖に擬態して、遺跡が建っていた。

 巨大生物の骨格標本みたいな細い岩を骨組みにして、ドーム状に布製の膜が貼ってある。


「明らかに、人工物ですね」


「細い岩やけど、元は骨やろうな」


 風化して、岩のように固くなったのだ。


 布製の幌も、化石のように固くなっている。

 

「やっぱり、遺跡みたいなんはあると思っていたけど」


「どうして、そう思ったんです?」


 クゥハが、問いかけてくる。


「古代文明かなんかが、あると思ったんや」


 暗黒大陸テネブライは、あまりにも人の気配がなさすぎた。それも、人工的に。

 何者かが、この大陸から人間族を遠ざけているのかもしれない。

 となれば、そういう仕掛けを行ったものがいる。


 ウチは、そう考えたのだ。


 その考えは、正しかったらしい。


「テネブライの秘密、解かせてもらうで」


 ウチは、遺跡の中へ入り込む。

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