第25話 幼女、ドローンとゴーレムを開発
負傷している父ベヤムの代わりに、メフティが荒野ステージ行きを志願する。
たしかに、ベヤムはまだ瘴気のダメージが抜けていない。瘴気は取り除けたものの、当分激しい戦闘はムリだろう。
「ダメだ! お前はまだ子どもだ! そんな危ないところに行かせられるか!」
当然のように、ベヤムは反対した。
「でも、ついていきたいぞ! とーちゃんが行かないなら、オイラが行く!」
「たしかにお前は強い! その歳で、大人のドワーフくらい動ける。だが!」
「オイラだってドワーフだ。ドワーフの誇りくらいあらぁ!」
あら~。
いくらなんでも、ムチャが過ぎる。父を思う気持ちは、わかるが。
「なあ、カニエ。冒険者登録って、いくつからできるんや?」
「冒険者登録に、年齢制限なんてありません。エルフやドワーフは、五歳からでも大人扱いですからね」
エルフやドワーフは、体つきこそ子どもでも、知識は大人並みに発達しているという。
「猫人や馬人などの獣人族なんかは、三歳から独り立ちしますよ。『もう大人だから』と、群れを追い出されるんです」
だとしたら、九歳のメフティは資格あり、と。
年齢は問題ないなら、戦闘力が関わってくるのか。
「クゥハから見て、メフティの戦闘能力って、テネブライでも通用しそう?」
「激戦にも耐えられるフィジカルは、持ち合わせているかと。瘴気がなければ、テネブライでも十分通用すると思います。若いので、戦闘経験値も大量に会得できるでしょう」
将来有望、と。
どうしましょ。
「逆に聞きますが、アトキン。ドワーフを連れていけるとして、どちらを連れていきますか?」
「メフティ」
そりゃあ、ガチの幼女を連れていけるならありがたいが。
「ですよね。ならば、答えはすぐに出てくるはずです」
「……そうか」
ウチは、カニエが作り直しているドローンに目を向けた。
「カニエ。あんたのドローン、さらにスケールダウンしてや」
「え? どのくらい、すればいいのでしょう」
「必要最低限で。動けるか空を飛べるくらい、ダウンサイズ」
「フェアリーサイズにしてくれ」
ウチはジェスチャーで、うんと小さいドローンを作るよう、カニエに指示を出す。
「妖精のサイズですね、わかりました。内蔵する魔力炉など、限界はありますが」
「小型化のテストも兼ねて、できるだけ小さくやってみてや。ウチも手伝うさかい」
「はい!」
さっそく、カニエがドローン作成に取り掛かる。
結局、イチからのスタートになってしまった。
とはいえ、ものづくりが好きなカニエとしては、どんと来いだそうで。
先に作った丸型ゴーレムは、
「では」
「せや。メフティを連れて行く」
ウチが言うと、ベヤムが「おい!」と抗議してきた。
「ただし、や! ドローンで連れて行く」
ウチは、カニエが作った丸いゴーレムを片手に持つ。
「あんたを助けたときに、丸っこいゴーレムがおったやろ」
「ああ……たしかにな」
「それのデカい版を作る」
大型ゴーレムを作成し、ソイツとメフティをシンクロさせる。
ドローンであれば、メフティを連れて行く心配はない。
「そっちが終わったら、こっちを手伝ってや」
「はい。わかりました。正直、助かります。その大きさは、動力や活動内容に限界があったので」
「そこは、ウチに任せといたらええ。ウチが、メフティ用の歩行型ドローンを作る」
歩行型ドローンの組み立ては、ベヤムに任せることにした。
ウチは、ゴーレムをメフティとシンクロさせる用の装置を開発する。
「オイラは、どうしたらいいんだ?」
「念じる訓練をしてください。ゴーレムは、念じるだけで動くので」
メフティは庭で、クゥハと向かい合って座禅を行う。
「ベヤムの奥さん、堪忍です。お引越しの手伝いもロクにせんと」
「いえいえ。主人も娘も楽しそうで。私はなにもお手伝いできませんから」
ムカデ人間を大量投下して、ベヤム一家の引っ越し作業をしてもらっていた。
ウチやベヤムにも、大勢の魔物人間態を助手として使う。
あとはひたすらテスト、テスト、テストの連続が続いた。
ゴーレムがずっこけたら、関節部の調整を。崖を登れないなら、重量のチェックをした。
クゥハというコーチがいるため、戦闘面はバッチリ鍛えられる。
できるなら、ウチがずっと付き添って手取り足取り……といきたい。
しかし、ガマンである。戦闘に関しては、ウチよりクゥハの方が適任だ。
動力の問題は、どちらのドローンも「ウチが魔力を提供すればいい」で解決する。
カニエのフェアリータイプのドローンは、早い段階で開発が終わった。
「一旦、荒野エリアに行ってみるか」
「そうですね。試してみないと」
ひとまずメフティの戦闘訓練は、クゥハに任せる。
ウチはカニエのフェアリードローンと共に、荒野エリアを回ることにした。
そもそも荒野地帯の敵がどんなやつなのかわかっていなければ、探索どころではない。
「カニエ。ひとまず海沿いのカニを、シバクで。アイテムは拾ってや」
「わかりました。おまかせを」
「来るで!」
崖のダンジョンから、化けガニが群がってきた。
【テネブライ・ブラッククラブ】か。そのままだな。ネーミングは、化けガニで十分だ。
森林エリアで強化したレイピアで、つついてみる。
カニの装甲は、さすがに硬い。とはいえ、こちらの武器も頑丈になっている。戦えないわけじゃない。
「アトキン先生、遊んでないで仕留めないと、負けますよ」
「いや、フィジカルも鍛えておかないと、強さの面で置いていかれるんや」
ウチは純魔……純粋魔法使いが、ポリシーである。
ただ、テネブライはなにがあるかわからない。いきなり「魔法禁止エリア」なんて出てこようものなら、ウチはお荷物だ。カニエやメフティに、魔力を提供することもできなくなる。
「魔法禁止エリアなんて、あるのでしょうか? 瘴気は、魔力の塊なんですよね? テネブライが放つ魔力の中でしか、ここの魔物は生きられない。だとしたら、魔法禁止地帯に魔物は寄り付かないのでは?」
「たしかにな」
ひとまず、魔法禁止エリアのことは考えなくてよさそうだ。
考え事をしていると、化けガニのハサミがウチのレイピアを挟む。
「おっと、カニさん。お待たせや。ほな、死んでや!」
ウチは風属性魔法によって、竜巻を起こす。
落下のダメージで、化けガニが全滅する。
「この素材は、もろうとこか」
カニの甲羅を、ゴーレムの装甲に使う線で。
崖エリアの壁に張り付いていたスライムやトカゲを、同様に竜巻で撃退する。
「崖の奥が、ダンジョンやと思ってたんやが」
見たところ、モンスターの巣だった。化けガニのタマゴらしきものが、大量にあるだけ。
こちらのダンジョンは、ハズレである。
ムリに、踏み込まなくてよかった。突撃していたら、無限に産まれてきた魔物たちにこちらが撃退されていただろう。
「隠し扉のトラップも、なし」
「アイテムは、大量に手に入りましたよ」
「なんか、カギみたいなアイテムはないか?」
もしかすると、森林エリアにあった「アラクネの巣」のように「特定条件次第でキーアイテムが手に入る」形式かもしれない。
「ありませんね。カニのタマゴも見てみましたが、アイテムらしいものは発見できませんでした」
お楽しみが増えたな。ここで見つかっても、面白くない。
メフティと探索して、正確なダンジョンを探すとしよう。
こうしてさらに月日が流れ、いよいよメフティのゴーレムが誕生した。
メフティの趣味が全開なためか、デザインはぬいぐるみレベルにデフォルメされたクマである。ゴツゴツにヨロイで武装しているが、かわいい。
「これで、ええんやな?」
「おーっ。オイラの家系は代々、メインクラスは【ナイト】で、サブクラスで【ドルイド】を取ってるから」
ならば、動物の扱いにも長けているか。
「ほな。突入は明日や!」
明日から、本格的なダンジョン攻略を開始する。
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