第24話 エセ幼女、ガチ幼女とたわむれる
「メフティ、お客さんの前だ。ちょいとどいてくれるか?」
「おー!」
メフティと呼ばれたドワーフ幼女が、ベヤムから離れる。
「さあさあ。お客さんにあいさつしな」
「おー。オイラ、メフティだぞ。九さい」
ガチだ。ガチ幼女ではないか。
「えらいな。ウチはアトキンや。よろしゅうな」
「アトキン! 覚えた!」
本当に賢い子だ。
「大事な話があるから、かーちゃんところにいってきな」
「ほーい」
メフティが、集落の方へ走っていってしまった。
「なあ、あのことはまた遊べるやろうか?」
「報告が終わったらな。家にまねこうじゃないか。こちらから、おもてなしをする番だ」
メフティと会えただけで、こちらとしては十分に礼になっているのだが。
さてさて、王様に報告報告。
「なあクゥハ。一応、人間態に変身しているんやが、おかしくないやろか?」
「どうってことありません。あなたの変身能力は、エルフでも舌を巻くくらいですし」
「ほな、ええか」
ちょっと神経質すぎるかな。
ウチらは、ノルムス王の城へと向かう。
湖を挟み込んだ谷を城状に掘ったという、ゴージャスな作りである。鉱石を掘っていた際にできた空洞を、そのまま城にしてしまったらしい。攻防一体の構造で、実に合理的である。
ベヤムの手引で、ノルムス王と会うのは滞りなく済んだ。
人間と会う機会が多いのか、扉も天井も背が高い。
ドワーフ族は成人でも、人間族の腰くらいまでしかないのに。
どんな種族が来ても、対応できるようになっているのか。この世界のドワーフは、結構社交的なのかもしれない。
ノルムス王は、ベヤムに輪をかけてヒゲモジャの男性である。
「アトキンとやら。ベヤムを助けてくださって、礼をいう」
あまりに緊急だったので、報酬は追って提供してくれるらしい。
それまで、いくらでも集落に滞在してていいそうだ。
「ベヤムは、我が城の密偵だ。とはいえ、使い捨ての存在ではない。それが、無事で帰ってこられたのは、うれしく思う」
ノルムス王様は内心、ベヤムの帰還を絶望視していたという。それが、ものの数日で帰ってきたのだ。驚いても、ムリはない。
「図々しい話だが、テネブライの事情を説明していただきたい。まさか、テネブライに先住民がいるとは」
「ウチらかて、移民組やけどな」
ウチはノルムス王に、ノートを渡す。
ノートと言っても、辞書数冊分くらい分厚い。いわゆる、カギ付きの日記帳のようなものである。テネブライに入ってから、ずっと綴ってきたものだ。魔物のイラストなども、記してある。触手をフル活用して、書いたものだ。
言葉で説明するより、レポートを提供したほうが早い。
なにより、早く帰ってメフティを愛でたいのだ。
「帰ってええか? 言葉で説明するより、そのノートを見たほうが早いで」
「後で、解析に回すことにする。とにかく、テネブライが想像以上に危険な場所だとはわかった。下がってよいぞ」
「どうも。質問があったら、ベヤムの家におるから、言うてや」
「うむ。大義であった」
ウチらはすぐに、開放してもらえた。
さてさて、続いてベヤムの家に。
城とは打って変わって、こじんまりとした作りである。
メフティはさっそく、父ベヤムに飛びついた。
奥で料理をしているのは、奥さんだという。
「こんにちは。メフティ。何をして遊ぶ?」
ウチは、メフティの前に立つ。
「お外で、ボール投げ!」
メフティが、ボールを取ってきた。ボールと言ってもゴム製ではなく、いわゆる蹴鞠である。鹿の皮に、大麦を詰めて縫ったものだ。
「よっしゃ。行こうか」
「おお!」
メフティが、鞠を蹴り飛ばす。
「うお!?」
ウチは思わず、触手を展開しそうになった。
何が蹴鞠だ? 飛んできたのは、まるで鉄塊ではないか。
「メフティのキックは武器にもなるから、気をつけな」
ベヤムがそう教えてくれた。早く言ってほしかったが。
ウチらが遊んでいる間に、ベヤムはカニエのドローンをメンテしてくれるという。材料もノルムスには豊富にある。じっくりと、パワーアップしてもらえばいい。
ならばウチは幼女を相手に、フィジカルを鍛えておくか。幼女の無邪気な闘争本能を、全力で受け止める。
「っご!」
土手っ腹に蹴鞠を抱きしめて、ウチの決心が一瞬で揺らいだ。
「大丈夫ですか、アトキン?」
一緒に遊んでいるクゥハが、ウチを心配している。
「どうってことないわい」
「足がプルプルしていますよ。手を貸しましょうか?」
「かまへん」
地力で立ち上がり、ウチはメフティの鞠を待つ。
今度は、鞠が顔面に飛んできた。
「平気ですか、アトキン?」
「テネブライの魔物よりは、確かに弱いんやけどな」
鼻を押さえながら、なんとか持ちこたえる。
「それでもウチの防御力は、かなり低いんやと思い知らされるなあ」
その後も、ウチはメフティと、おもいっきり遊ぶ。蹴鞠遊びをして、相撲を取って、支離滅裂な会話にも耳を傾ける。
目一杯汗を流した後は、夕飯だ。
ベヤムの奥さん特製ブラウンシチューは、格別である。異世界といえば薄味と聞いていたが、この世界の料理はちゃんとしている。このブラウンシチューも、バターが効いていて美味い。ウチがクタクタだからというのも、あるだろうけど。
ベヤムが酒好きなので、ワインをドバドバ入れるのがコツなんだとか。
「アトキンは、子ども好きなんですね」
ウチと一緒にメフティと遊んでいたクゥハが、感想を述べた。
「せやねん。一時期は本気で小児科医か、保母さんを目指そうと思っていたくらいやねんで」
「なればよかったじゃないですか。魔女なんかより、よっぽど子どもと接しても怪しまれませんよ?」
クゥハはおそらく、「治療院か孤児院で働けばいい」というニュアンスで話しているのだろう。
「小児科医は専門知識が頭に入らず、保母さんはオルガンとお歌がアカンかった」
結局は、子ども用玩具のメーカーで働くことになった。が、児童と触れ合う機会は少なかった。
「子どもがお好きなら、連絡をくださればよかったのに。わたしの子どもだって、アトキン先生に抱かせて差し上げましたよ? 知り合いなんですから『魔女に子どもをさらわれる!』なんてトラブルも起きませんし」
「たしかに、カニエの言う通りなんかもしれんが……うーん。ちょっと違うんよねぇ」
幼女だったら、他人の子どもだろうとかわいい。
しかし、なにかが違う。
「先生は、ご自身で出産も考えませんでしたよね? 自分の子どもは、かわいいものですよ?」
「出産の前の過程が、イヤやねんよ」
殿方と出会って、デートして、結婚してと、手順が多すぎる。未婚の母って手も、考えた。
しかし、ウチは「自分自身が、永遠に幼女のままでいたいんだ」とわかってしまったのである。
「先生は甘えベタなくせに、やたら幼女になりたがりますね」
「子どもと自然と接することが、可能ですから。おそらくアトキンは、自分も児童として、児童とたわむれたいのかと」
「なるほど。クゥハさんの言うとおりかもしれないですね。先生の子ども好きは、庇護欲からではない、と」
クゥハとカニエの会話を聞きつつ、ウチも自己分析がはかどった。なるほど。ウチは自分が幼女になって人生をやり直したかったのかもしれん。
「テネブライのことだが、もうワシは探索できんかもしれん」
ベヤムが、そうこぼした。
テネブライの探索は、想像以上にキツイという。
「ついてこられへんか?」
「テネブライ自体には、居を構えよう。全力で、手伝わせてもらう。だが、攻略となると、もう足を引っ張る未来しか見えん」
ドワーフをもってしても、テネブライ探索は不可能か。
「オイラが行くぞ!」
元気に手を上げたのは、幼女メフティだった。
「お前が? ムチャだ!」
親であるベヤムは、やはり反対をする。
「いや。その案は考えたんよ」
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