第四章 幼女、ドワーフと荒野を目指す(ちびっこ同士やな!
第23話 幼女、肖像権を侵害される
「これは一体、どういうことやねん!?」
ウチは王都のアンテナショップ担当者に、詰め寄った。
【邪神の像】として、ウチのフィギュアが売られている件について。
「ウチのフィギュアを作って、勝手に売り飛ばしたんやて?」
「あれは本来、売り物ではなかったのです! アトキン様を個人的に愛でるため、掘ったものです」
この像は、店主が完全に趣味で掘っていた。邪神の魔力を感じられなくなったので、心細さからの行為らしい。
今でも窓際の壁に、フィギュアがズラッと並んでいる。だいたい、一〇〇体くらいか。ポーズも全部違う。どうやって、「手でハート」「ほっぺたを両手で掴んでハート」ポーズなんて覚えた?
地球のドルオタ文化ではないか。
ウチはコイツに、地球の萌え産業事情なんて教えていない。
地力で覚えやがったのか。
こわ。
「せやったら、なんでやねん!? なんでその非売品を、このドワーフが持っとるねん!?」
ベヤムから像をひったくって、店主に突きつける。
「そちらのドワーフ様が譲ってくれというので、仕方なく」
ウチは、ベヤムに事情を聞く。
「コヤツの言うことは、本当だ。ワシは、この男から像を譲ってもらった。金貨三枚で」
「えらい金額やな」
金貨三枚なんて、普通の店売りアイテム一式買えるぞ。
「とんでもないっ! これでも安すぎるくらいだ」
ベヤムが、やけに力説する。
「見ろ。この像に練り込められた、計り知れないほどの魔力を! この像があったから、ワシはテネブライでも生き延びられたのだ」
誇らしげに、ベヤムが像をウチにまざまざと見せつける。
「この細部まで作り込まれた完成度。腰の曲がり具合まで再現したフォルム。腹のポッコリ具合まで、完璧だ。ワシが子持ちでなかったら、性癖が歪んでいただろう」
「ちょっと、詰め寄り過ぎや」
「おっと。すまん。重要なのは、そこではなかったな。いや、それも重要か。ワシは、この像の特殊性にこそ、惹かれたのだ」
どうやらウチの像には、邪悪な瘴気を吸い取る作用があるらしい。
「この店主の力ではないのか」と思ったが、クゥハによると違うようだ。性癖のパワーでは、ないというわけか? この店主は、リビドーが強そうだが。
「像に微量ながら、アトキンの魔力を感じます。あなたが知らないうちに、魔力をその像に送り込んでいるようですね」
ウチの魔力が流れ込んだために、像が瘴気を吸収できるようになったらしい。虫よけかな?
無自覚魔力注入とか。ウチの身体は、どうなってしまったのだろう? いくらなんでも、ファンタジーすぎる。
あ、でもここはファンタジー世界か。とはいえ、なんでもアリが過剰だ。
ウチの像が出回るのは、いいことなのか? 正体がバレまくりで、動きづらくなるのでは……。
まあいいか。
「どうするんです? 販売停止にしますか? 瘴気を吸うと分かった以上、ヘタに量産すると、テネブライに続々と侵入者が来ますよ?」
「いや。放置しよう」
「アトキンは、それでいいんですか?」
「ウチの存在がバレる可能性は、限りなく低いさかい」
第一、テネブライの瘴気を吸い取る作用があると言っても、あくまで微量だ。長時間の滞在には向いていない。
「値段も釣り上げる。金貨三〇枚で。テネブライ価格や」
まるで「温泉地価格」みたいな言い方だが、この値段をつけておけば、めったに買われることはなかろう。
「それでも、買う人はいるでしょう。邪神アトキン様。あなたの人気は、とてつもないので」
「待ってください。店主、この像は、盗作はされていないのかしら?」
カニエが、意見をする。
たしかに、フィギュアの構造だけをマネして、自分で作ってしまう美術家などが現れかねない。
「それがね、いたんですよ! でも、みんなやめてしまって」
邪神の像のレプリカを作った者たちは、数名いたという。だが、どれも劣化コピーだった。
「サンプルとして、ボクも何体か買ってみたんですよ。これなんですが」
店主が、露天で売られていたニセ邪神像を置く。
「なんぼやった?」
「銀貨一枚でした。それでも、買い手がつかない様子でしたね」
「……ブッサイクやな」
なぜかどれも、邪神とは似ても似つかないガタガタのデザインである。
「信仰心がない者たちには、脳にフィルターが掛かっているのでしょう」
クゥハによると、邪神像を掘るには、ある程度の信仰心が必要のようだ。邪神と直接出会っていなければ、いくら像だけをマネても本物を作れない、と。
この店主、邪神教団の神父様にでもしたほうがいいのでは?
「盗作の心配がないなら、ええわ。このまま金貨三〇枚で、売りたかったら売りや」
「ありがとうございます」
「他の商品の売上も、ええみたいやし。今日は大目に見といたろ」
「ありがたき、幸せ」
「ただ、なんかあったら逐一報告してな」
「承知しました」
ウチは、邪神グッズのアンテナショップを出た。
「さて、ベナムは帰るんやな? 飛空艇に乗ってや」
「行きだけでなく、帰りも使わせていだだけるとは」
ベナムは恐縮している。
「飛空艇を使ってや。船はアカン」
ウチが、念を押す。
船だと片道だけでも、数ヶ月かかってしまう。その点、飛空艇ならすぐにたどり着ける。往復でさえも、数日で済むのだ。
テネブライの荒野ステージに、あまり時間をかけたくない。
なにより、ウチに禁断症状が出そうだ。
「御駄賃はアトキン先生から請求できますので、ご安心を。その代わり、ベナムさんたちドワーフの技術を提供していただきたく」
「ふむ。掛け合ってみよう」
王都はもともと、ベナムの故郷とのパイプが太い。テネブライを共に攻略するなら、共同戦線となる。
なによりカニエは、自分のドローンの強化がしたいはず。
今のドローン技術では、探索「だけ」しかできない。武装ができるようになれば、さらに探索の幅が広がる。
「さすが先生。なんでもお見通しですね」
「ダテに魔女しとらんて」
「今は邪神ですけど」
「まあな。せやけど、ドワーフの国か。楽しそうや」
ウチはカニエの許諾を得ずに、飛空艇に乗り込んだ。
クゥハも同行する。
「ついて来るんですか?」
もちろん。
ドワーフの国なんて、生涯お目に抱えれるかどうか。
「行けるところはだいたい行こうかいな、と」
「あなたは生前、出不精でしたよね?」
たしかに。
ウチは特別な用事がなければ、だいたい研究所に引きこもっていた。
テネブライ探索も、それでいいと思っていたのである。実に快適な環境だと。
そんな視野の狭さも、ウチの後悔の一つだった。
まったく世界を見ずに、すべてを探索した気になっている。最強の名をほしいままにしていた割に、なにも世間を知らない。
ましてやこの世界は、ウチが死んで三〇年経っている。
どんな世界になっているのか、単純に知りたい。
そのうえで、テネブライの魅力を引き出したいのだ。
外を見ないと、今の場所・今の環境が果たして恵まれているのか、それともただの化石地帯なのか。
今のウチには、まったくわからない。
「見えてきましたよ、先生。あれがドワーフの国、ノルムス半島です」
緑豊かな山岳地帯が、飛空艇の窓から見える。
打ち寄せる波が、激しい。昔流行った、日本の映画会社のオープニングみたいだ。
広い草原の上に、飛空艇を降ろす。
「とーちゃん、おかえりー!」
ポテポテと、小さい子がベヤムの足に抱きついた。
幼女! 幼女や。ウチのようなバッタモンではない! 正真正銘、ガチ幼女が眼前に!
ウェーイ! 幼女最高!
「ドワーフの集落に来ただけですのに、アトキンはなにを小躍りしているんです?」
冷静に、クゥハから突っ込まれる。
失礼、取り乱しました。
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