第14話 領主、幼女
さてさて、お宝の中身を拝見と。
宝箱、ご開帳~っ。
「ん?」
なにやら、金属板のようなものが、財宝の上に乗っている。
手に取ってみると……。
[【草原】地域の支配者、【アラクネクイーン】を討伐しました]
お? なんか、ダンジョン内にアナウンスが流れてきたぞ。
いわゆる、【天の声】ってやつ?
[これにより、草原地域の支配者を、【ダゴン:アトキン・ネドログ】に変更します]
え、どういうことだ?
「クゥハ、意味がわかるか?」
「えっとですね。『アトキンは、この土地を好きにして構わない』、という意味です」
つまり、ウチは領主様になったらしい。
「ウチが領主ねえ」
「いいじゃないですか。ショップをお建てになりたいと、言っていましたからね」
領主になったら何をするか、は、今度考えよう。
いくら領主になったからって、ウチ以外の住人はクゥハしかいない。
「それより、お宝や。さてさてよ~っと」
強そうな武器や防具、素材などが大量に手に入った。
なによりありがたいのは、この【アラクネ型ゴーレム】である。糸と布を作り放題! これで、上質なベッドが作れる。お洋服も、作っちゃおうかしら。ウチには、服飾のセンスないけど。
「これは大収穫やで」
「おめでとうございます」
「でも、領主様って柄じゃないからな~。クゥハ、交代する?」
「ワタシも領主には、興味がありません」
「なんでよ? 腐っても魔王やろ?」
「魔王とは、もっとカリスマ性があるものです。ワタシはぼっちなので、民衆の吸引力がないんですよ」
ああ~っ。そうだった。
おそらく魔王ベルゼビュートは、「この土地での魔王として強くなった上で、民衆をけん引する力も身につけなさい」って意味で、ここへ娘を放りだしたんだろうな。
それをクゥハは、自分の力を強くすることだけに費やしたと。ここらへんの魔物を支配できるように。
親の心、子知らずというが、まさにこんな感じか。
「外に出よか」
「はい。アトキン。ワタシは、なにもしなくてよかったんですか?」
「なんで?」
「まったくお手伝いしていないのに、側においてくれています」
「別にええやん。お隣さんがいるってだけで、だいぶ楽しいねんから」
「嫌われていないなら、それでいいのですが」
嫌うも何も、ウチはこの子にとっては仇だ。いくら依代、つまりダミーといえど、母親の身体を破壊した。いつでも討たれる覚悟はある。
なのにクゥハは、ウチに馴染んでくれた。
お互い、攻撃の気持ちはない。
なら、お友だちになったらいいのだ。
仲間とは違う。ウチにとって仲間は、弟子のカニエと、その両親である侯爵夫妻といえる。魔法を発展させるという共通の目的があったので、手を組んだ。
だが、クゥハと共に生きるのは、特に目的がない。のんびりスローライフをしようではないか。
外に出ると、雰囲気がまるで変わっていた。
「あれ、瘴気が消えてるやんけ」
我が家と岩山の周りだけだが、瘴気が綺麗サッパリなくなっている。
息を吸っても、まったく息が詰まるような感覚がない。
視界も、今までは若干モヤがかかっていたような雰囲気だったのに。
ウチの領地の周りだけ、空は青々と晴れ渡っていた。
「マジで、ウチの領域になったんやな」
「かもしれませんね」
現在ウチの領域となったと思しき地点は、森に入った辺りから、岩山までのエリアだ。この【テネブライ】が一つの大陸だとすると、二〇分の一くらいが、ウチの陣地になったとみえる。
「こんなデカいエリアなんてもらっても、なにをしたらええんや」
「領地を拡大するくらいですかね」
「テネブライを、人の住める土地にすることかいな?」
それはそれで、メリットがなくなってしまうような。
こういう土地は、秘匿されてこそ価値があると思うのだが。
「そうではなくて、活動できる範囲だけ広げてみてはどうかと」
ほしい素材を手に入れるために、土地を広げていくと。
「ええな、それ」
相手のテリトリーを侵す行為になりそうだが、相手はお互い魔物だ。そういうものとして割り切ろう。
この土地だって、いつかは魔物に襲撃を受ける。この領地を狙って、ウチに攻撃をしてくる輩も出てくるはずだ。
ならば、備えようか。
「あの、ごめんください」
ボロを着た数名の人間たちが、ウチの家の前に集まってきた。見たところ、一〇〇人くらいはいそうな感じ。民族大移動か?
「なんや、あんたらは?」
「我々はここらで生息していた、モンスターです」
「あんたら、ムカデかいな!?」
なんと、この付近で生息していた魔物が、人間の姿を取るようになったらしい。それでも、ごく一部だが。
たしかによく見ると、ムカデのカブトを被った者、モグラのヘルメットを被った者など、種類が分かれていた。
「コボルトまで、おったんかいな」
「はい。実は」
ゴブリンやオーク、コボルト族などの亜人種まで、ウチに会いに来ているではないか。
「で、要件は? さっそく、領主であるウチにケンカを売りに来たか?」
「~♪
ウチは歌いながら、シャドーを始める。
「あなたはなぜそうも、ケンカっ早いんですか? もっと民衆の話を、聞いてあげましょうよ」
「すまんすまん。前世のクセでな」
ウチは「ケンカを売れる相手には、売る」をモットーにしていた。目に映るものはすべて、一旦「経験値になるかどうか」試さなければ、気がすまない。
「違います違います! 領主様相手にケンカなんて、恐れ多い!」
「ほな、ウチになんの用事なんや?」
「実は、こちらに居を構えさせていただきたく」
そんなことか。
「ええよ」
「ありがとうござ……って、決断が早いですね!」
「こんなん、躊躇しても、しょうがないし」
住民が増えるということは、管理してくれる人が現れたということ。
「ありがたき幸せ。では」
「ほな、土地の管理はアンタがやりや」
「我々がですか? 領主様を差し置いて?」
「それに、元々あんたらの土地やんけ。間借りさせてももろてんのは、ウチの方や」
なにもかもミニオン頼りだったが、住民が現れたとなると、そちらに管理してもらうのがいいはずだ。
せっかく、一般人にも解放されたのだ。
「ウチを住まわせるにしても、追い出すにせよ、アンタらが決めたらええ。同族をしばかれまくったから、殺したる! ってつっかかってきてもええんやし」
「それは、ありえません」
「なんでや? 同族殺しやんけ?」
「確かに、アトキン様に同胞を倒されたことによくない感情を抱くものもおります。そういう者たちは、ハナからあなたの元へ来ておりません。ここにいるのは、あなたに忠誠を誓う者」
ここにいる亜人たちは、あくまでもウチに従うつもりらしい。
「どない思う?」
「ふむ。見方によっては、強い者に取り入ろうとする種族ばかりかと」
「悪い言い方をすれば、そうなるよなあ」
「さすがに意地悪なので、その意見は消し去りましょう」
「せやな」
とにかく、この土地とダンジョンは、彼らの好きにさせることにした。
つまり、いつもどおりだ。
「ありがとうございます。領主アトキン様」
「別に、領主になりたいわけやないんやけどな」
だが、これでショップの第一歩が踏み出せる。
一部の土地が解放されたことで、一般人のテネブライへの出入りが、わずかながら可能になった。
この家をショップにしてもいいが、どうせなら店を建ててしまおう。
ショップができたら、弟子のカニエを呼ぼうかな。
夢が広がリングだ。
(第二章 完)
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