第13話 幼女、お宝探しとリベンジ
このダンジョンには宝箱があちこちにあると、クゥハから教わった。
クゥハに教わったボス部屋は、ザコが大量に湧くトラップに過ぎない。
ボス部屋の辺りには、宝箱が点在している。
と、いうことは。
ボス部屋攻略に必要なアイテムが、宝箱に眠っている可能性が高い。
「アトキンの考えが正しいなら、宝箱を開けまくったほうがよさそうですね」
「せやねん。クゥハ。モンスターがドロップするかもって思ったけど、せやったらもっと強いモンスターを配置するよなーと」
なのでこれから、宝探しと行こうではないか。
さっそく、宝箱を発見した。えらい雑なところに、置いてあるんだな。もっと玄室というか、鍵付きのフロアの中にあるもんだと思っていたが。
「うん、ハズレ」
箱を開けて、ウチはため息をつく。
踏破済みのスペースも、隅々まで調べてみる。結果は、芳しくない。
だが、興味深いこともわかった。
「ここの宝箱って、一旦出たら中身が復活する仕組みやねんな?」
「中身のグレードは、落ちますけどね」
たしかに。
「よっしゃ。このペースでアイテムを掘るで」
気を取り直して、またアイテムを掘ろう。
「お? これはええんとちゃうか?」
ブレスレットを、手に入れた。アイテムを探知できる効果が、ついているそうだ。
「これを手首にかけて、っと」
防御効果を持つネックレスとデザインが違いすぎるが、まあいい。今は、実用性重視だ。
「アトキン、宝箱が出てくると言われた途端に、やる気を出し始めましたね?」
「ウチは、現金やからな」
ダンジョンも、隅々まで確認しないと落ち着かない性格なのである。
攻略済みの浅いフロアも周り、見落としがないか確認をした。
「ん?」
腕輪が突然、ピコンピコンと反応する。この腕輪には、財宝探索機能を搭載している。さっそく、効果を発揮したではないか。
洞窟の岩壁に近づけると、点滅がさらに激しくなる。
どこかにスイッチでも、あるのだろうか。
「ビンゴや」
岩壁を撫でてみると、不自然なくぼみを発見する。
「おっ。隠し扉や」
くぼみに指を引っ掛けて、横へスライドさせてみた。
壁がズズウ……と、移動を始める。
新しいフロアが出現した。真っ暗な通路が、どこまでも続いている。
行き止まりには、宝物庫があった。宝箱が、山ほど置いてある。
「おお、これはええな」
箱を開けると、アイテムがザクザクと出てきた。ありがたく、いただいていく。とはいえ金貨があるとしても、テネブライでは使い道がない。とにかく、ボスに通じるアイテムがなければ。
「あった! これちゃうか?」
銀色のカギを手に入れた。
「ボス部屋への本当の扉が開く……って書いてある!」
やっぱり、ウチの読みは正しかったらしい。
別の通路を発見し、奥へ進む。
また、ボスフロアの扉を発見する。ハズレフロアと、同じ構造だ。しかし、この扉には鍵を差し込む穴がある。
銀色のキーを差し込んだ。
キーがひとりでに、吸い込まれていく。
扉がギギギ……と、不気味な音を立てて開いた。
「邪魔するで」
『邪魔するなら帰れ』
「さよか……ってなんでやねん!」
久々に、ノリツッコミをしてしまったではないか。
デカいクモの巣の上に、アラクネらしき巨体が座っている。腕が何本もあり、その太さは木の幹くらいある。これこれ。上半身が人間で、下半身がクモってのが、そもそもアラクネだ。
「って、顔はガスマスクのままなんかいっ」
またノリツッコミしてしまった。
どうにも、このボスはウチのネタ意欲をくすぐってくる。
「お前が、アラクネやな?」
『左様だ。ここに来たということは、我が子たちはやられたと思っていいだろう』
「ようわかっとるやんけ」
『我がフロアに入るには、一〇〇体以上の娘を倒さねば資格を得られぬ』
ハズレフロアも、回る必要があったってわけか。
「とにかく、覚悟してや。シバくさかい」
アイテムの「布」を効率的に手に入れるには、コイツを倒す必要がある。
「あんたに恨みはないが、やられてもらうで」
『よかろう。酔狂な魔物はキライではない。かかってくるがよい』
では、お言葉に甘えさせてもらう。
アラクネの前足と、ウチのレイピアが交差した。
いける。アラクネの攻撃にも負けていない。
『なんと。木っ端のくせに、生意気な』
「木っ端かどうか、自分の身体で確認してみんかいっ」
ウチはさらに追撃をする。
『我が手をかけずとも、お主はもう我が術中にハマっておる』
「なんやて? くっ!?」
足の動きが鈍い。アラクネの巣を、踏んでしまったか。
普通こういう敵は、「相手のテリトリーに入らず、遠距離でチクチク痛めつける」ってのがセオリーだ。
ウチはそれを嫌った。デカい敵を相手に遠距離攻撃だと、時間がかかりすぎると思ったからである。
その判断が、アダになったらしい。
「しゃらくさいわい!」
火炎魔法で、巣を焼き尽くす。だが、すぐに復活してしまった。また、足を取られてしまう。
足が動かないまま、アラクネの攻撃を受け止めるしかない。触手まで発動させて、アラクネの攻撃を受け流し続ける。
とうとう、下半身まるまるが、巣に埋まってしまった。
『そのまま、我の糧となるがいい。安心しろ。我が娘として、我のために働く喜びを与えてやろう』
「……? ほんなら、ハズレフロアにおったんは?」
『無謀にも我に挑んだ、魔族たちなどだ。ただ殺すのは惜しいのでな。眷属にしてやることにした』
ウチも、ハズレフロアの眷属みたいになるわけか。我が家で使っている、スケルトンとかのミニオンと同じ扱いだ。
それは、ごめんこうむる。
ウチは、使われるのは好かん。
言われたことをやるのが苦手だから、依頼達成で生計を立てる冒険者にもならなかった。
どうしてわざわざ自分から、人に操られる道を選ばなければならないのか。
「ミニオンになるんは、そっちや!」
ウチは、大量の金貨を腰のアイテムボックスからぶちまけた。触手で金貨を受け止めて、受け止めて受け止めてー。まだまだ受け止め続ける。
とうとう金貨の重みで、糸がちぎれる。
「思った通りや!」
バカでかいアラクネが巣の上でも平気で立っていられるのは、複数の足で巣のあちこちに支点を散らしているからだ。
だが、同じくらいの重みが一点に集中してしまったら?
『な!?』
お前は、好かん。
愛嬌がないから、ペットにもしてやらない。
せめてウチの配下として、生まれ変われ。
「必殺! 銭投げ!」
ウチは触手を駆使して、金貨をばらまき続ける。
『バカなやつだ。そんな小さい金貨で、我を貫こうなどと!』
クモの糸を尻から放出して、アラクネは壁に金貨を叩きつけた。
「ほっよっはっ」
明後日の方向にまで、ウチは金貨を撃ち続ける。
『なにを考えて?』
「こういうことや!」
レイピアを突き出して、ウチは魔法を唱えた。「遠距離から熱線」を放つ。
狙うは、アラクネの眉間だ。
『ふん。苦し紛れの攻撃など、我には通用せぬ』
アラクネが、熱線を前足で軽く跳ね返した。
だが、熱線は「壁に張り付いた金貨」に反射する。
「おかわりや!」
ウチは金貨の方にも、魔法の熱線を放つ。
反射した熱光線が、あちこちに散らばった。
『なにい!』
ほんのわずかな小さい光線でも、無数に反射して一点に集まれば。
『おおおおおおお!?』
「クモの巣やのうて、ハチの巣にしたったわ」
文字通り穴だらけになったアラクネが、地面に落下する。
「お見事でした、アトキン。無事ですか?」
「まあまあや。せやけど、お宝はダメになってもうたかも」
ウチは、溶けた金貨をつまんで持ち上げた。
「大丈夫ですよ。黄金は、それだけでも価値がありますから。それに」
アラクネの身体が、灰になっていく。代わりに、巨大な宝箱が出現した。
「あなたのいう[クリア報酬]というヤツが、出てきたかもしれませんね」
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