第12話 幼女、アラクネをシバく

 レイピアの出来もバッチリ。魔法を流し込んだときの、伝達率も高い。角を使ったからいびつな刀身になっている。しかし、その波々した刀身も気にならない。


 ああ、俄然やる気が出てきたな。

 とはいえ、宝箱も気になる。

 

「アトキン、どうします? 先にアラクネを退治するか、お宝探索を優先するか」


「アラクネやな!」


 まずは、武器の性能を試したい。


「敵わんって思ったら、宝探しをして改めて攻略したらええ」


「ですね。まあ、アトキンでしたら、どんな相手でも勝てると思いますが」


「そうやろか?」


「あなたはご自身の強さを、過小評価し過ぎでは?」


 自分でも、実感わかないんだよなあ。


「まあええわ。一旦、アラクネをシバきに行くで」


 ウチは、ダンジョンの下層を目指す。


「アトキン、こちらです」


 クゥハが、ナビゲート役をつとめてくれた。そのおかげで、スイスイと進む。


「ん? この敵は、前にも見たやつの色違いやな」


 下層の敵は、上の階とあまり代わり映えがしない。ちょっと色が違うくらいか。攻撃力が上がって、体力はそのままって感じである。


「アイテムが、しょぼい。思ったより、ええアイテムが出えへんやんけ」

 

 落とすアイテムも、上層の敵が落とすアイテムのグレードアップ版程度だ。このダンジョンは、ドロップアイテムにたいした価値はないのかも。


「宝箱に入っているアイテムのほうが、マシですね」


「ほんまや。レア出まくりやん」


 やはり、宝箱にいいものが入っている可能性があるな。


 ただ、ここは「どっち」や?


 宝箱のパターンには、二つある。


 一つは、「ボスを倒した後に現れる、財宝タイプ」だ。いわゆる「クリア報酬」ってやつである。これは、もちろん備わっているだろう。


 クゥハすら無視するような相手だ。相当な達人に違いない。そんなヤツが、クリア報酬を吐き出さないなんてことは、ありえないはず。

 


 もう一つは……。

 


「おっ。ボス部屋発見!」


 いかにもボスのいる部屋と思しき扉を、発見した。巨大な魔物の骨で作ったような扉である。

 ウチが近づいていくと、扉がひとりでに開いた。


 天井に、巨大なクモの巣が広がっている。そこに、人影が立っていた。

 

「来たでぇ……あれがアラクネか」


「そうです。間違いなく、あれはアラクネですよ。アトキン」

 

 普通アラクネといえば、「上半身が人間の女性、下半身がクモ」というイメージがあろう。


 しかしここのアラクネは、頭がクモで胴体と手足が人間の女性だった。背中に、複数のクモの足を背負っている。口はガスマスクのような形状で、言語を発する気管ではないらしい。シュコーシュコーと、呼吸音のみが響く。


「改造人間かいな!」

 

 これは魔物ではなく、魔族だ。とはいえ、意思疎通とかできるタイプではない。絶対、人間とか外界の生命体に興味を示さないだろう。あらゆる命は自分のエサであり、下等生物と見下している。言葉を発しなくても、雰囲気で伝わってきた。


「自分の強さに、絶対の自信があるみたいやな」


 クモ女が、タン、と巣から降りる。


 側転をして、こちらに迫ってくる。腰から複数の足を展開し、回し蹴りを浴びせてくる。腰から伸びた足を利用してより軸が安定し、正確無比なキックが繰り出された。


「ええやん。ボスってのは、こうでないとな!」

 

 無数のキックを、ウチも触手で弾き飛ばす。ツインテ触手が、こんなところに役立つとは。


「どうや? このツインテは、お飾りとちゃうんやで!」


 相手も、ウチの能力に気がついたのか、戦法を変えてきた。口から糸を吐き出し、触手の動きを止めに入る。ウチを引き寄せ、武器を持った腕を掴んできた。

 

「甘すぎんで、アンタ!」


 ウチは触手から、魔法の光を放つ。ウチの触手は魔法石を大量に取り込んでいるため、砲台にもなる。威力は低いが、密着して打ち込めば……。


「うらあ! 腕はもろたで!」


 複数あるクモの腕を、一本だけながら破壊した。


 再生されてしまったが、おそらくダメージは蓄積している。傷の回復までには、至っていない。


「武器のサビに、なってもらうで。【ソニック・トラスト】!」


 肉体強化をして、ウチは攻撃の速度を上げる。相手に突撃して、クモの頭部をレイピアで貫く。


 だらしなく、アラクネは仰向けに倒れた。


「よっしゃ!」


 アラクネを、退治したようである。


 この剣の威力、思っていたよりすごい。ボスですら瞬殺とか。


 レイピアが強いのか、このボスが弱いのかわからないが。


 そんなことより、クリア報酬である。


 さてさて、クリアの報酬は……!?


「出ないんかい!」


 待てど暮らせど、宝箱が出てこない。

 

 あれだけ苦労したのに無報酬とか、テネブライって渋すぎん? まあいい。経験値が大量に入って……。


「こんのかい!」

 

 経験値すら、しょぼい!


「どういうことやねん! テネブライ! いくらなんでも、ハードすぎませんかねえ! まったく、どないなっとんねん」


「ああなってるんです」

 

「……ん?」


 さっき倒したはずのアラクネが、大量に降りてきた。


「あああ、さいですか。そういうことね!」


 どうやら、アラクネは複数体存在するようだ。なんか、ボスの割に脆いと思っていたが。


「ええやんええやん! まとめてかかってこいや!」


 ウチは、剣を構え直す。


「手伝いましょうか?」


「かまへん。これはウチのワガママや。最後まで、自分でやったる」


「じゃあワタシは、自分にかかってくるアラクネを撃退しますね」


 しゃべりながら、クゥハは群がるアラクネを斬り捨てた。そこそこ強いはずのアラクネを、一気に複数も。


 倒しても倒しても、無数の手足がウチに攻撃をしてくる。

 

「アカン。キリない! こうなったら!」

 

 ウチは、最大火力の【シャドウフレア】で、フロアごと爆発させた。

 

 

「あーもう、なんでやねん!」


 ウチは、地団駄を踏む。


 一〇〇体以上のアラクネを倒したはずなのに、アイテムの一つも落ちてこないからだ。


「どないなっとんねん。あれだけ倒したら、普通はクリアやろがいっ」

 

 となると、可能性は一つしかない。


「アカン。クゥハ、撤退や」


「逃げるんですか? 配下は全部倒したのに?」


「ここは、ハズレフロアや」


 ダンジョンにはたまに、「攻略しなくていいフロア」が存在する。

 まさかリアル世界で、こんなフロアを引き当ててしまうとは。実際にあるんだな。こんな場所が。

 しかも、ボス部屋にもハズレがあるなんて。

 たいていハズレフロアだとしても、なんらかの意味があったりするものだ。豪華なアイテムがあったり。

 しかし、それすらない。


 ここのダンジョンのボスは、相当意地悪なタイプのようだ。


「なるほど。本来のボス部屋ではないと?」


「せや。一杯食わされたみたいや」


 渋々、ウチはフロアを出ていった。



 帰宅して、ヤケクソで入浴する。

 

「ああくそ。腹立つ」


 湧き上がる苛立ちを、湯船で溶かすことにした。

 それでも、腹立たしさが募る。


 クゥハに抱きついて、癒やしてもらおうっと。

 

「申し訳ありません。ガイド役のはずが、まさかハズレだったとは」


 ナビゲート役のクゥハが、頭を下げる。


「ええねん。あんたのせいやないし」


 とにかく、アラクネが悪い。

 ヤツは見つけ次第、八つ裂きにする。


「あれくらい歯ごたえがないと、テネブライに来たって感じがせえへんし」


 ウチは、腕を組んだ。

 

「うーん。これは、もう一つの可能性にかけるしかない」

 

「と、いいますと?」


「宝箱探しに、シフトを変えるで」


「ボスは、あきらめるんですか?」


「そうやない。ボス部屋に行くために、宝箱を漁る必要がありそうなんや」


 道中に宝箱があるってことは、つまり、アラクネ退治になんらかの攻略法があるってわけだ。

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