第11話 幼女のアイテムクラフト

「あのダンジョンって、お宝あるんか?」


「そりゃあそうですよ。ダンジョンなんですから。知らなかったんですか? アトキン?」


 クゥハが、首を傾げた。


「いや、テネブライって人類が入られへん土地やろ? 宝箱があるとは、思ってへんかってん」


 予想外だった。そもそも魔物しかいないテネブライに、お宝という概念があったとは。


「魔物しかいないように見せますが、一応魔族も生息していますから。ワタシみたいな」


「別の種族も、生息しているわけやな?」


「一応は。関わりを持てるかどうかは、わかりませんけどね」


 どうりで、ダンジョンがあるわけだ。構造も、どこか人工的だなとは思っていたが。


「でな、クゥハ。ウチが取り込んだこの【ダゴン】族ってのは、魔物なんか? 魔族なんか?」


「知性はないため、魔物じゃないですかね?」


「カテゴリは、邪神やのに?」


「神様に知性があるとは、限りませんので」


 そういう括りかい。


 地球産のテーブルトークRPGの神様も、知性がないやつがいたな。ラスボスクラスで。変に力が強いってだけで、人間に近い知恵や知識があるわけでもないのか。


 そのうち、ダゴンの同族にも会えるかもしれん。


 ひとまず、ダンジョンにお宝はあると。それらを探しに行くのも、いいな。ダンジョンに眠っているのが、素材だけではないってのはワクワクする。


 ウチのドロップ率がどれくらいかも、気になっていた。ダゴン族になったからって、物欲センサーが働かないとも限らない。


 まあ、明日はダンジョン探索はお休みだ。装備を整えなくては。

 


 

 翌朝から、ウチは工房に引きこもる。

 いつもは優雅に過ごす朝食タイムも、パパッと済ませる勢いだ。


「それで、アイテムやな。どれどれ」


 さっそく、拾ったアイテムを広げた。


 どれから加工しようか、目移りしてしまう。


【回復の泉】を中心に狩りをしていたので、結構な量が集まった。


 集まったのは、以下の通り。


 オオムカデの甲羅、死骸。こちらは引き続き、スケルトンの材料にする。

 スライムたち。こちらもミニオン化する、と。あと、スライムのゼリーを何種類か手に入れた。このままだと、単なる水味のグミでしかない。柑橘の果汁でも混ぜて、携帯用ポーショングミとして売ってみよう。


 あと、この世界の【エリクサー】って、甘酒なんよな。さすが「飲む点滴」と言われるだけある。こちらでも、その栄養素は健在だ。それどころか、致命傷までたちまち直してしまう。

 米と麹と混ぜて、スライムのゼリーでとろみを付けて、甘酒エリクサーの完成だ。


 クモの魔物からは、糸が手に入った。これを魔法で編み込んで、枕にする。とはいえ今は、枕程度の量しか取れていない。

 

「問題は、これか」


 ドラゴンパピーの、牙と爪と目玉。

 

「こっちは、アクセにしょうかな」


 牙と爪に穴を開けて、ビーズほどの魔法石と一緒に糸でつなぐ。クモの糸があるから、材料には事欠かない。

 あとは、パピーの目玉を中央に装着して、完成だ。


「どや? ネックレスなんやけど?」


 ウチはクゥハに、できあがったネックレスを見せる。


「火炎・凍結・雷撃の防御率が、格段に上がりましたね。ヨロイじゃないのに、ここまでの魔法防御力は、たいしたものです」


「……や、そうやなくてな」


「なんですか、アトキン?」


「ウチはなぁ、これでも、女の子やねん。たまには、女子トークしたいねん」


 数えたら八〇は軽く超えている。言うて、ババアだ。といっても、女はいつまでも若々しくありたい。女子トークに飢えているのだ。


「おシャレにだって、多少は興味がある」


 生前はできなかったビューティトークに、ちょっと関心が出てきたのだ。


「あなたは『その香水どこで買いましたの? オホホ』といった御婦人がたの茶飲み話からは、最も程遠い方だと思っていましたが」


「いや、実際そうやねんけどな」


 せっかく友人ができたのだ。そういう話をしたっていいじゃないか。

 

「ワタシに美的センスは、ありません。ですが、似合っていると思います」


「さよか? おおきに」


 次は、クゥハの武器だ。


「お宝の剣も、結構な切れ味になりそうやな」


「今持っている武器より、若干威力は落ちますが」

 

 スケルトンを練習台にして、クゥハが打ち合いを始める。


「【パワースラッシュ】が、打てないくらいですね」


 ウチと斬りあったとき、クゥハが使っていた技か。剣に炎をまとわせて、打ち込んでくるスキルだ。


「あれが使えんと、便利悪いんかな?」


「ですね。強いと言うか、硬い敵が相手だと、効率が落ちます」


 使えなくはないが、サブウェポンとしても心もとないらしい。


「わかった。ほな、その技に耐えられる武器にしたるわ」


 幸い、鉱石を大量にゲットした。


 ウチに鍛冶スキルはないが、アイテムを作るスキルは持っている。【合成】を使ってみるか。


 拾った鉱石と、クゥハの剣を、スキルで組み合わせてみる。慣れていなかったせいか、一時間も費やしてしまった。もっと禍々しくしたくて、する。


「できたで。試しにその辺で振ってみて」


 クゥハに、剣を持たせてみた。

 

「はい。よいしょっと」


 手に剣が戻ってきてそうそう、クゥハが森へ剣を振るう。

 

 ゴワン! とシャレにならない音がした。


「うわ、なんや!?」


 ウチは工房から飛び出す。


 外に出ると、クゥハが呆然としていた。視界の先には、更地になった森が。


「なんや、この威力は?」

 

 森が、えぐれていた。ゴリッと。


「アトキン。少し、ハッスルしすぎなのではないでしょうか」

 

 剣を握り締めながら、クゥハがやや震えていた。


「でも、これくらいでちょうどよくないか?」


「かもしれません」


「それにしても、なんでまた?」


 威力が上がっているのは、いいことである。とはいえ、ここまですごいとは。

 

「アイテム生成のレベルが、上っているのでは?」


「それや!」


 そういえば、寝る前にレベルを上げたんだった。残っていたスキルポイントを、アイテム生成に割り振ったのである。アイテムを作る際に、能力アップすると説明があったからだ。

 自分のステータスが頭打ちになったら、アイテムの力を借りねばならぬ。だったら、今のうちからセットしておこうと思った。


 その結果、森がズタズタに。


「……ええ薪ができたと、思っとくわ」


 スケルトンに指示を送って、薪を拾わせる。

 

「えっとですね。鑑定してみてわかったのですが、剣の能力は、これだけじゃないんです」


 再度、クゥハが剣をふるった。大木に向かって。


 今度は、木が凍りつく。傷をつけただけなのに、木は氷の柱となった。


「ありとあらゆる属性が、込められているみたいです」


「これはこれで、使えそうやな」


 属性に弱い敵に、効果的だろう。


 こうなったら、ウチの武器作成も俄然やる気が出てきた。


「おっしゃ。魔法石と武器を融合させて、ついでにドラゴンパピーの角を合成!」


 できあがったのは、一回り小さいレイピアである。光刃タイプは威力がなさすぎて、やめた。角をそのまま使って、物理剣に。

 

「クゥハ。試合や!」


「望むところです」


 クゥハは、ドロップアイテムの長剣を片手に持った。


 すくい上げるような剣の攻撃を、ウチは先読みして回避する。


 さしものクゥハも、驚いて動きが止まった。


「ボーッとしとったら、アカンで」


 今度は、ウチから仕掛ける。


 さすがにクゥハは攻撃を防御したが、いつものようには受け流せない。


 ウチは、さらに攻撃を押し込む。


 今までまったく見えなかったクゥハの攻撃が、手に取るようにわかる。まるで剣が、敵の太刀筋を教えてくれるようだ。


「うん。ええ感じっ! これはええぞ!」


 純魔……純粋魔法使いであるウチに、剣術スキルはない。それでもこの剣は、武器としても魔法の杖としても活用できそうだ。

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