第二章 幼女はダンジョンを攻略する(売り物の材料も調達するで!

第9話 幼女、ダンジョン侵入

 朝食を終えて、クゥハと共に装備を整える。


 武器は使い物にならなかったので、【テネブライ】仕様にアップデートしてみた。オオオムカデの甲羅を利用して、火力と持続力を上げている。


「服は軽そうなんやが、さすがにナメすぎやろか?」


「ワタシがいますから、アトキンは安心して後ろについて来てください」


 クゥハが、前衛を担当してくれるという。


 弁当を二人分作って、アイテムボックスへ。

 

「他は、これでええんやろか?」


 照明用の精霊を、呼び出してみた。一応ウチは、夜目がきくようにできている。が、中が暗すぎるとどうしようもない。


「全体像を把握したいなら、持っていてもいいでしょう」


「せやな。アンタは、あのダンジョンを攻略したことはあるん?」


「話に聞いていただけで、挑んだことはありません。お互い、不干渉って感じですね」


「なのに、家の壁は破壊したと」


「アラクネの寝床は、地下なので」


 フロアボスに、ケンカを売っているわけではない。いると知らなかったのだという。


「こちらから挑まなければ、アラクネは何もしてきませんからね」


「してこなさすぎやろ」


「それだけ周到な性格なのです。ワタシがトレーニングをしていても、『なんか上が騒がしいな』くらいしか感じていなかったそうなので」


 鈍感すぎる。


 待てよ。アラクネはもっと、深い場所にいるのかもしれない。だとしたら、上で轟音が響いても気にならないはず。

 デリケートな性格ではないのは、確かなようだ。


「ほな、出発しようか」

 

「そうですね」


「午前中は、開けたところだけを行くで」


 テネブライのダンジョンがどうなっているのか、しっかりと把握しておきたい。

 アラクネとの戦闘は、後日に回す。

 

「はい。まずはダンジョンの把握から、やっていくことにしましょう」



 いよいよ、ダンジョンに侵入する。

 といっても、外から見えているところだけ、重点的に進む。


「下から行くか、上から降りていくか」


「登りましょう。見晴らしのいいところで、お昼にしませんか?」


「ええな。ここのてっぺんは、登ったことないし」

 

 ウチらはひとまず、上を目指す。


 ダンジョンの中は、外の世界にあるダンジョンとさして代わりはない。土が緑色をしていたりするフロアがあるくらい。コケが化石になって、ブロック化しているのだ。


「鉱石が、大量にあるな」


 これは、もらっていこう。アラクネとの戦闘で、役に立つはずだ。


「敵です」


 ヘルメットをかぶったモグラのモンスターが、シャベルを槍のように構えている。鉱石を拾いすぎて、頭にきたか?


 ウチは、装着している武器から、雷撃を撃つ。


 ザコモンスターのくせに、モグラの怪物はウチの雷攻撃を受け止めた。


「反応速度が、外とはエラい違いや!」


 とはいえ、相手は武器を失う。

 そのスキをついて、銃口にレイピアを展開した。モグラを一突きで仕留める。

 もう一体の魔物は、クゥハが処理済みだった。


 ウチがクゥハに苦戦したのは、装備面の問題だろう。武装が、貧弱すぎた。テネブライに生息するモンスターと戦うには、テネブライ産のアイテムを揃えたほうがいい。


「アンタらが掘り出した鉱石も、有効活用させてもらうで」


「そんなに鉱石を集めて、どうなさるのです?」


 たしかに、自分の装備品として使うなら、多少余りがちだ。

 

「ちょっと、考えていることがあってな。まあ、頂上を目指そか」


「はい。こっちです」


 普通に攻略するだけなら、外から登るか、切れ目をよじ登っていけばいい。

 しかし、ここはダンジョンである。せっかくなので、中も全部把握しておきたかった。いい素材があるならほしいし、強いモンスターとも戦ってみたい。


 岩のような外郭を持つ、サソリが現れた。鉱物を体内に取り込んで、あの姿になったようだ。


 レイピアで、接近戦に挑む。


 クゥハなら大剣で一撃なんだろうけど、ウチはどうだ?


「ですよね!」


 ウチのレイピアは、サソリの装甲を貫けない。このレイピアは、もうアカンかも。ラスボスとの戦いで使った武器を強化した、ウチの最高傑作だったんだが。もう力不足になるとは。


 さすが、テネブライだ。これくらいでなければ、入った意味がない。イキり散らかしていたウチの心を、ボッコボコバッキバキに砕いてくれる。そうこなくては。


「お手伝いしなくても、平気ですか。アトキン?」


 クゥハが、後ろで剣を構えている。もう一体出てきたサソリを、処理しているようだ。あっちは、簡単に切り裂いているな。

 

「ああ、問題ないで」


 もう、伸びしろしかない。

 そう考えるだけで、胸が踊る。


 今は、ウチが最弱モンスターだと思うことにしよう。これから、こいつらを追い抜いていけばいい。いずれこのサソリだって、チーズのように切り裂いてくれる。

 

「ひとまず、全力でシバく!」


 ウチは、【シャドウフレア】を展開した。小型の疑似太陽で、サソリを焼く。


 こんなザコ同然の相手に、全力で戦うことになるとは。



「こちらは、済みましたよ。アトキン」

 

「こっちもや」


 大幅に魔力を消耗して、肩で息をする。


「いやあ。力不足を実感するなあ」


 素材を集めながら、自分の力のなさを実感した。

 

 だが、レベルは上がったらしい。ステータスは、フィジカルに振っておいた。ひとまず、生存能力を上げることに専念する。

 あんなザコでさえ、ウチからしたら格上だ。こんなヤツらなら、クゥハがトレーニングしていても、耐えられるだろう。何事もなかったかのように。


 あらかたザコを片付けて、さらにレベルを上げていく。

 屈辱感は、まったくない。むしろ、自分がテネブライに順応していくのを、肌で感じ取る。

 ハードーモードの世界や新天地でも無双してしまうような作品も多いが、それだと成長を感じ取れるのかどうか謎だ。どこに行っても、同じことをしているようで。


 やはり新しいステージに立ったなら、試行錯誤してみたい。

 

「外が見えてきました。お昼にしましょう」


 ようやく、頂上にたどり着く。


 ビニールシートを山のてっぺんに敷いて、お昼を取った。

 ボア肉で作った、カツサンドだ。魔法で雑に下処理をしたのでやや固めだが、イノシシ独特の臭みはない。ウチは家でも、料理をしないタイプだった。オカンに作り方を聞いておけばよかったかな。


「この世界のサンドウィッチなんて、初めて食べましたよ」


「あんたの国って、どんな世界やってん?」


「娯楽が戦闘しかない、環境でしたね。こういった味を追求したものや嗜好品は、視界にすら入っていませんでした」


 必要最低限の栄養さえ取れれば、いいらしい。それはそれで、さみしい人生だな。強さだけを追い求めているため、ストイックすぎるのか。


「大丈夫ですか、アトキンは? かなり、苦戦をしていたようですが」

 

「レベルが、三も上がったで」


 ウチはもう、レベルが上がりきっている。かなりの敵を倒さないと、レベルは上がらない。

 それでも、ここの敵を大量に倒したことで、少しずつクゥハに追いつきつつある。


「反対側の山には、回復ポイントがございます。そこで、ちょっと鍛えますか?」


 クゥハが、山の切れ目の反対側を指さした。

 中央に、大きな泉がある。泉から水が溢れて、滝が流れていた。あの泉には、体力と魔力を治療する効果があるらしい。


「あそこで鍛えたら、ええ感じに強くなりそうやな」


「それはそうと、どうして大量の鉱石を集めているのです?」


 たしかに、自分の武装を作るなら、実験材料としても量が多すぎる。これなら、無限に装備が作れそうだ。


「実はな。売り物を作ろうとしてるねん」


 ウチは、テネブライにショップを建てようとしているのだ。

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