第7話 幼女と、ライバル
装着型の射撃武器から、細長い刃を展開した。
ウチの武器は、剣といってもレイピアである。クゥハが持っているような大剣に、対抗はできないだろう。
しかも、青白い炎をブワッとまとい出したし!
「やけに本気やんけ!」
「あのアトキン・ネドログが相手なのです。【
クゥハはウチを、確実に葬り去るつもりだ。
母親である魔王の仇である、ウチを。
それでいい。そうでなくては。
「ベルゼビュートの一子、末娘のアークゥハート。いざ、参ります」
下からすくい上げるように、クゥハが切り込む。早い!
「これは、アカン!」
ウチは土魔法で、岩の山を作り上げる。
その頑丈な岩さえ、クゥハは斬り捨てた。
「どうなさいました? 【
「あんたのオカンは、こんな脳筋とちゃうかったもん!」
魔王ベルゼビュートは、どちらかというとウチと同じタイプだった。
いわゆる「純魔」……つまり、「純粋な魔法使い」タイプの魔王だった。肉弾戦で切り込んでくるタイプではない。
おそらくこの子に対しても、「もっと魔法の腕を磨きなさい」と、この地に捨てたはず。
しかしクゥハはその意志に反して、筋肉を鍛え抜いてしまった。
結果、えげつない化け物が完成してしまったらしい。
読みは外れたとはいえ、ウチがもっとも苦手とするタイプに成長しやがった、と。
結果オーライなわけだ。
ウチは、こんな風に力で押し切られるタイプに弱い。
先程からウチは、彼女が打ち込んでくる間にも魔法を施している。試しに金縛りの精神異常攻撃や、トラップ系の魔法を放っているのだ。
そのことごとくを、クゥハは破壊してくる。足止め魔法を踏みつけ、落とし穴は飛び越え、幻覚はすべて一振りで消滅させた。
あのヨロイの影響なのか、自身の意志が強いのか、魔族の特性なのかはわからない。
しかし、なにも通じていないのは事実だ。
おかげで、クゥハはウチをシャッキリと目を覚まさせてくれた。
ここは、強敵が渦巻くテネブライである。異世界に現れた、闇の異界。いわゆる、エンドコンテンツだ。魔王を倒しても、まだ先はある。
ウチは、まだまだ強くなれるのだ。
もう、伸びしろしか感じない。
ネームドモンスターのうちで、今はウチがここでの最弱だろう。
それでいい。どんどん追い越してやる。
からめ手が使えない以上、こちらも力で押し切るしかない。
それは、こちらも願ってもないことだった。相手に通用するのならば。
「シャドウフレア!」
いきなり、最強の特大魔法を撃ち放った。岩山よりデカい、灰色の疑似太陽を。
身体は馴染んでいる。魔力の伝達量も、申し分ない。威力はバッチリだ。
クゥハが、さっきのように剣で魔法を切り裂こうとした。
ウチが壊せなかった、岩をチーズのように斬ったときのごとく。
しかし、剣は弾き飛ばされ、全身ごと巻き込まれていった。
「ムリや! 魔王を倒した、特大魔法やで!」
クゥハは圧力のある魔弾に、ドンドンと押されていく。ウチの家から、かなり遠くまで飛ばされた。
ようやく、クゥハが疑似太陽を吹き飛ばす。
しかし、呼吸が荒い。剣を持っていられないほど、消耗しているようだ。
剣の炎も、消えている。
「……やめや」
ウチは、再び剣を構えた。銃型に作ってある角型武器の先から、レイピア状の光刃を作り出す。
「ワタシと、打ち合うつもりですか?」
「せや」
「ムチャです。ワタシの剣の腕は、見ましたよね?」
「その慢心が、ヤバいねん」
ウチもさっきまで、ウチが最強やと思っていた。
しかし、そんな幻想はあっさり覆される。
テネブライでは、どんなことが起きるかわからない。
マルチファイターとして立ち回る方が、いいだろう。
だから、剣術にも力を入れないと。
それに、せっかく新しい力を手に入れたのだ。
フィジカル面でもどこまでいけるのか、試したい。
「あーん。さっきレベルアップしたときに、腕力にも振っとけばよかったー」と、内心で後悔した。とはいえ、付け焼き刃で腕力を上げたところで、クゥハには勝てなかっただろう。
ムカデを相手にしたときは、たまたま相手が弱かっただけ。オオムカデを基準にしては、いけない。あれで「純魔でもイケるわー」と、慢心した。
クゥハだって、テネブライでのソロ狩りを見越して、耐性を上げているではないか。
テネブライでは、トータル的な力が求められるのだ。多少弱くなろうとも。
「こいや!」
「おおおおう!」
ウチの光刃と、クゥハの剣が踊る。
とはいえ、受け止めきれない場合は魔法を撃って凌ぐ。使えるものは、なんでも使う。
クゥハも、手を抜いてこない。
泥で足場を沈めても、クゥハはすぐに対処してしまう。
ああ、いい。この高揚感はたまらなかった。
ライバルが、いる。
正直な話、ベルゼビュート相手でも感じることができなかった。強敵との戦闘感覚は。
初めて、全身全霊で戦える相手ができたような。
「もっとや! もっと来てくれ!」
「はああああ!」
巨大剣に不釣り合いな連続突きを、クゥハが繰り出す。
予想外の動きに、ウチはとうとうダメージを受けた。
「ぐほおお!」
腹を抑えながら、後ろに下がる。
肉体は、即で再生した。しかし、クゥハの対処法がわからない。
「降参ですか?」
「まだや。勝負はついてへん」
「あきらめて、首を差し出しなさい」
「それは、ないな。あんたかて、全力で倒してこそ、オカンに認めてもらえるって持ってんねやろ? 最後まで、ぶっちぎりで殴り合おうやんけ」
「肉弾戦をご所望なら、受けて立ちましょう」
ゴッ! と爆風をまといながら、下からすくい上げで切りかかった。
どうする? どうすれば、クゥハの固いガードを突き破れるのか?
一旦魔力を回復して、もう一度シャドウフレア? 違う。そんなのは勝利とは呼ばない。
剣で目潰し? それはどうしようもなくなったときだ。今がその時だが、ここは責めどきではない。
「もうええ!」
ウチは、わざと自分で落とし穴に落ちた。
「な!?」
やっぱりか。クゥハはこちらが構えている時の攻撃には対処できるが、ハプニングには弱いみたいだ。ウチが白兵戦を望んだときも、反応が悪かった。生真面目すぎるんや。
「……アカンな」
テネブライというエンドコンテンツにいながら、ウチは落胆していた。
ここで鍛えれば、強くなるのは間違いない。ここには最強の猛者共がウジャウジャいるはずだから。
しかし、視野が狭くなる。強い敵とばかりやり合っていたら、不測の事態に対する備えを怠ってしまいそうだ。
クゥハの性格にもよるのだろうが、テネブライの常識に囚われ過ぎな気がする。
ここはエンドコンテンツではあるが、世界の一部に過ぎない。
幅広い多面的な視野は、ここでは養えない気がした。
「なにがアカンのです!? お覚悟を」
「ウチが勝ったら、あんたの敗因を教えたる」
「なにをバカな。まだ勝負はついてません!」
「ついたで」
ウチは、上腕に固定していた武器を、ヒジまで移動させた。先端を反転させて、クゥハの土手っ腹に打ち込んだ。
ウチの下半身が、上半身からサヨナラしてしまったが。
「玉砕!?」
「【サンダーストーム】!」
クゥハが着ているヨロイの中に、稲妻の嵐を巻き起こした。ただし、みぞおちに一点集中させて。
雷撃が、クゥハの身体を突き抜けていった。
「ぐ、お」
たしかに、クゥハのヨロイは硬い。ウチの全力破壊魔法に耐えられるほど。
強固なヨロイとはいえ、一箇所に攻撃が集中すれば弱い。
「ウチの、勝ちやな」
切られた下半身を、ウチは触手で引き寄せる。切断面にくっつけると、再生を始めた。
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