男性器は危機的状況に瀕すると、勃つ

 都内屈指のお嬢様学校であらせられる百合園女学園の女子寮の浴場は広い。


 集団での寮生活を円滑に行う為なのか、あるいは本物のお嬢様がお使いになられる浴場だからという理由がある所為なのか理由は定かではないけれども、それはそれは広い。


 どれぐらい大きいかと言うと人間が10人ぐらい入っても余裕があるぐらいで、正直に言ってしまうと余裕でここで1人暮らしが出来てしまえるぐらい。


 今日もそんな百合園女学園第1女子寮の浴場には湯が張っており、今日も今日とて天井から雫がぽたりぽたりと滴り落ちる――。


「フ。あら、唯お姉様ったら儚げで犯し甲斐のある見た目に反してお転婆なのね。いきなり湯舟にダッシュしてはジャンプして入り込むだなんて……フ。ベッドの上では野獣という訳ね? ついに正体現したわねこのケダモノベッドヤクザ百合女。でも! そういうワイルドなところも好き! さぁ! その勢いのまま私を襲って! 私の処女膜を奪わせてあげるから唯お姉様の処女膜を出しなさい! 本当にちょっとだけでいいから! 唯お姉様の愛液とお湯でトロトロになった処女膜をちょっとだけ貫通させたいの! 無論! 私のエア男性器でね! さぁさぁさぁさぁさぁ! こんなに可愛い清楚系美少女である私に処女膜を出して射精だされて唯お姉様も清楚になりなさい! それはもうドピュドピュとド清楚になるのは間違いなし!」


 全裸姿の変態が何か言っているけれども、私が凄い勢いで湯舟の中に入った事によって生じた湯水の勢いが余りにも凄かったものだから彼女が何を言っていたかは全然分からない――まぁ、どうせ聞くに耐えないようなセクハラなのだからもう1度言ってくれないかとお願いしても時間の無駄が過ぎるのだけれども!


「帰って! お願いですから帰ってください! 実は私は1人風呂じゃないと死んでしまう類の奇病なんですっ!」


「フ。奇遇ね。私も唯お姉様の残り湯をペロペロしてゴクゴクしないと死んでしまう類の奇病なのよね」


「絶対に嘘ですよねっ!? というかそんな事しないでくださいよっ!? 変態なんですかっ!? 変態でしたねっ! あーもうっ!」


「フ。唯お姉様が私を理解してくれてとても嬉しい。そんなに理解してくれているのなら私の股からドバドバグチョグチョと愛液が垂れているのも当然理解してくれているのでしょう? そういう訳で見て? ほら目を逸らさないで! 唯お姉様に視姦られないと私が絶頂出来ないじゃないの!」


 思わず反射的に両手で頭や耳を抑えてしまいそうになるけれども、まだ稼働しないといけない私の理性は両手で男性器をお湯の中に隠す事を選択してくれた。


 一応言っておくけれども、私は男の子なのである。


 確かに私は過去にミスコンで東京1の美少女になったり、同級生の男子生徒から求愛されたり、電車の中で痴漢されたり、女子校に通っているけれども、それでも私は男の子なのである!


 心が女の子とかそういう訳でもなく、心も普通に男の子だし、何なら人並み程度には男性的な性欲を持ち合わせているようなどうしようもない男の子が私なのである!


「フ。そんなに真っ赤っ赤になって唯お姉様は本当に可愛い。そんなにお風呂が熱いのかしら? 私はこれから2度風呂なのだけどお肌が痛まないかしらね」


 私が真っ赤にさせるほどに綺麗な身体の持ち主であろう女性は理由が分かっている癖にそんな事をわざとらしく口にしては、悠々と浴場の中に入室してきた。


 思わず一糸まとわない彼女の姿を視界に納めようと私の眼球が勝手に動かそうとするけれども、私の理性はそれぐらいで負ける訳――。


「フ。そんなに私の大きい胸が気になるのね? まぁ、これで今日の唯お姉様を抱いた訳なのだからそういう熱い視線を送るのも無理はない」


「――あ。ち、違っ……!」


「フ。安心して。私は見ての通りの巨乳。故に胸パッドを貼るぐらいに貧乳女子である唯お姉様が私の胸を羨むのも無理はない」


「む、胸パッド、って……みみみみみ、見たんですかっ!?」


「フ。偽乳バレした程度でそんなに動揺する事ある?」


 女の子じゃない事がバレるから動揺するに決まっているだろう、と思わず口に出してしまいそうになったけれども、馬鹿正直に理由を話そうとしなかった自分の口を思わず褒めてやりたい気持ちに駆られてしまう。


 というのも、自分にとって胸パッドとは女装をする為に必要不可欠な道具であり、弱点の1つでもある。


 もちろん、胸パッドをしているからという事実から男性であるという短絡的な思考は有り得ないだろうけれども、そういう事を考えるであろう人がいるであろうという事も可能性としてはやはり存在してしまう。

 

 思わず私が視線を逸らしてしまった下冷泉霧香という人物はそういう短絡的思考の持ち主ではないのだろうけれど……それでも私個人としてはこの胸パッドの事は出来れば隠しておきたかったのだ。


「フ。脱衣所に置いてあったら流石に誰でも気が付く。それに唯お姉様が胸パッドの使い手というのは容易に想像につく」


「それって……も、もしかして、私が胸パッドをする女の子だって最初からバレていたんですかっ!?」


「フ。それはもちろん。だって唯お姉様。まるでドスケベクソレズクソ女性器のような眼光で百合園女学園制服姿の私の胸をまじまじと視姦ていたじゃない。持たざる者だからついつい持っている美人を見てしまう気持ちに駆られてしまうのでしょう? この変態」


 思わず自分を殴りたくなってしまう衝動に駆られたというか、思わず土下座をしてしまいそうになるというか、色々とフォローしようが無いぐらいの失態を私の本能と眼球がしてしまっていた事に思わず言葉を失ってしまう。


 自分の両頬がどうしようもなく熱くなってしまうのはきっとお湯がまだ暑いからだ、と現実逃避してしまいたくなるけれども、どう言い訳をしても言い逃れが出来ないぐらいに自分にはそういう無意識のうちにやってしまっていた前科に記憶がありやがるものだから本当に救いようが無かった。


「誠に……! 本当に……! 申し訳ありませんでしたっ……!」


「謝った? 謝ったわね? 謝ったわ! 謝ったのなら詫び処女膜! 詫び処女膜出しなさい! 秒で破くわ!」


「で、出来れば言葉のやり取りだけで穏便に済ませては貰えないでしょうかっ……!?」


「フ。全裸で涙目になりながら謝る唯お姉様を見れたから許してあげる。これで1ヶ月ぐらいは自慰のネタに困らない」


 糾弾したくなるようなセクハラではあったけれども、意気揚々とその性的冗談を非難できるほど私は強くなかった。


 口から余計な言葉が出ないように一文字にした私はそそくさと広い広い浴場の端っこに、全裸姿の下冷泉霧香から出来るだけ遠ざかろうと距離を取るけれども……自分の女装事情がバレたら絶対に危ない相手を視界から消し去る選択を取れるほど、私は肝が座っていなかった。


(そ、そうだ……これは私の女装がバレない為……だから、見ないと……相手が何処にいるのかを把握しないと私が危なくなって、ご主人様にも迷惑をかけちゃうから……うん……だから……仕方ない……見ても、仕方ない……本当は見たくなんてないけれど……見ない、と……)


 ――視界に入った百合園女学園3大美人と名高い下冷泉霧香の裸を一言で言い表すのであれば、それはもう芸術品という言葉以外に言い表せるような言葉が無かった。


 たわわに実った胸は見る人間が男性でなくても思わず固唾を飲み込んでしまうぐらいに綺麗で、二度風呂で身体を再度お湯に浸からせる前に身体を軽く綺麗にしている彼女の姿を見ているだけで自分の下半身がむくむくと肥大化しているであろう事が容易に想像がついてしまう始末なのだが、そんな事に神経を浪費させるぐらいなら視神経の方にリソースを割いてしまおうと言わんばかりに自分の本能が稼働している。


(……ご主人様もすっごい美少女だけれども……何回か調教と題して無理矢理にお風呂場で全裸を見せられたけれども……うん、すごい……)

 

「フ。先ほどとは打って変わって情熱的で性欲的な視線を向けるようになったわね。もしも葛城がこの場にいたらのなら唯お姉様に苦言の1つや2つを呈していたのであろう事が想像に難くない。そして、唯お姉様の処女膜がそれはもうビチョビチョのグチャグチャになっているであろう事も想像に難くない! 浴場で処女膜間接キスをするつもりなのね! 流石は唯お姉様! 私のなんちゃって変態っぷりに余裕で勝てるほどの変態っぷり! そこに子宮がときめく妊娠させられる! だけど何だかんだで唯お姉様の処女膜を破って犯して孕ませたい! 理解わからセックスしましょう!」


(……このセクハラさえ無ければこの先輩すっごい真面な美人なのになぁ……)


 幸いと言うべきなのか、彼女の常識から余裕でぶっ飛んでは常識を軽く10周ぐらいは回っているであろうセクハラ発言――意味が全然分からないし、理解しようとも思えないような理解不能で最初から意味などないような――の数々が私の理性を本能から引きはがしてくれていた。


 余りにも意味の分からないセクハラは、そういう熱を奪ってくれるのだと私を身をもって覚えさせられていた。


 願わくば、この経験が来週末の身体計測で生かされない事を願うだけなのだが……そんな現実逃避のように考え込む私の視界に、ついに全裸の下冷泉霧香が浴場の中に侵入してきたのであった。


 ――不味い。


 これはどう考えても不味い。


 下冷泉霧香は、変態である。

 しかも、親密な関係ならでは過激なボディタッチとセクハラをしてくるような、実害と精神的被害をもたらすエロ災厄なのである。


「フ。ついに愛しき唯お姉様とお風呂……! フ。フフ。フフフのフ。こんなの余りにもエロだわ! あぁ! 唯お姉様の音! このお風呂の残り湯を葛城を使って秘密裏に売るだけで下冷泉家は巨万の富を得れそうな気さえする! だけど! それでも私はこのエロ愛液、やばいわ興奮しすぎて間違えた、唯お姉様水を独占す――! フ!? 私の美少女鼻から血!? 興奮の余りに私の鼻の処女膜が破れた! このままでは私の下の方の処女膜が自然破瓜するのも時間の問題ね! くっ! 唯お姉様を孕ませようとやってきた私を孕ませようとするだなんて流石は唯お姉様! くっ! 犯せ! 例え身体が犯されてもこの心も唯お姉様だけのものよ! それはそうと脱水症状は起きてない? 浴場で百合セックスすると脱水症状が酷いらしいから水分補給と愛液の補充は忘れないようにね! もちろん新鮮な処女膜を破った際にドバドバ出る血の用意も忘れずに!」


 じわりじわりと。

 変態が湯水を掻きわけ、両手で色々と触ってやるぞと言わんばかりに指をいやらしく蠢かせ、湯水を搔きわける際についつい目に入ってしまう太股の付け根が近づいていてくる。


 しかし、私は浴場から――入浴剤によって透過率が下がっている湯水の中に隠した男性器を眼前の美少女先輩にさらけ出す訳にはいかなかった。


「や、やだっ……! こ、来ないでくださいっ……!」


「フ。誘い受けがバチクソ上手いじゃないの唯お姉様」


「ち、違います……! 誘い受けとかそんなんじゃ……!」


「フ。誘い受けの意味がちゃんと分かっている唯お姉様は博識でとっても素敵。こんなに汚し甲斐があるのならどんな汚れ役でも余裕で買える」


 自分が女性ではないとバレてはいけないのに正体を晒してでもこの場から脱兎のごとく逃げ出したい気持ちと、女性の身体を見てはいけないのに自分の危険を守る事で窮地から脱する為だけにこの極楽を見続けたいという気持ちでごちゃ混ぜになってしまう。


 動きたいのに、動けない。

 動かないといけないのに、動かせない。

 

 色々と頭の中の情報がありすぎて、処理しきれなくて、行動という行動を起こせない。


 多数の女子生徒に囲まれて着替える前にこの経験を知れたのは確かに僥倖だが――その経験を知った代償として絶対にバレてはいけない秘密が暴かれてしまうだなんて、それこそ本末転倒ではないのか。


(……あぁ、終わった……)

 

 段々近づいてくる彼女と、1歩も動けずにぎゅうと目を瞑ってしまう私。


 その事実から辿ってしまう結末というのは容易に想像がつくもので――。




















「私の唯に何やってんですか、この変態――――!?」


















 随分と聞き覚えのある声で、だけどあんまり聞かないような、いや意外とよく聞くような叫び声を耳にした私は思わず閉じていた視界を開けると……そこにいたのはこの女子寮の利用者の1人であり、見慣れたくなかった全裸の姿の金髪の美少女がそこにいた。


「フ。あら茉奈さんも2度風呂? 脱衣ゲームに気合い入れ過ぎじゃない?」


「そうだよ!? 悪い!? 文句ある!? ……じゃなくて! 唯が嫌がっているんだから止めなよこの変態先輩!」


「フ。ぐうの音も出ない正論ね。茉奈さんの正論に免じて今日は3P放置プレイで手を打つ。何もしないまま3人でゆっくりお風呂を楽しみましょう……女の子同士で、ね?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る