私、男の子ぉぉ!!
「メイドだ。君の姉は僕の専属メイドをしてくれていたんだ。君の性分から考えて実に天職だと思うのだが……どうだろう? 君、僕の専属メイドになってはくれないか?」
「――メ、メイドっ⁉ わ、私をですか⁉」
「うん。だって君はとんでもないレベルの美少女だからな。メイド服とか凄く似合うと思うぞ?」
ちょっと待ってほしい。
メイドって、あのメイドだよね?
アニメや漫画に出てくるような特徴的な衣装に身を包む……あの!?
そんな服、着た事なんて……いや、あるけどっ……!
「君は仕事をしていた和奏を知らないようだから自慢させて頂くが、和奏はかなり優秀でな。食事も清掃も何でもござれで何をやらせても何でも出来る完璧美人であり、僕にとっては年の離れた姉のような存在だった。彼女は小学生の時から面倒を見て貰っていたんだ」
百合園茉奈は本当に姉の事が大好きだったのか、生き生きと饒舌になりながら僕の知らない姉の事を語ってくれていて、その様子はまるでというか完全に自慢していた。
にしても、あの姉がまさかそんな大金持ちの家で働いていただなんて……道理で両親や親戚がいないっていうのに、まだ幼い私の面倒を見るだけの高収入を得ていた訳だ。
「……それだけに、本当に今回の件はお悔やみ申し上げる。彼女は本当に才媛だった。メイドという職業は雇用主の一存で簡単に辞めさせられる事が出来てしまうから、基本的に長続きする人間は少ない。だが、和奏は違った。彼女は一族の皆に愛されて止まない素敵な人だった。僕もあんな素敵な女性になりたい。そう思う程の人物だったんだ」
少しばかりの暗い声に表情になってしまった彼女だが、そんな彼女の表情と感情だからこそ、私は改めて姉が本当に愛されていたのだと強く実感する事が出来て……肉親としては少し誇らしい気持ちになるのだけれども、やはり姉は本当に死んでしまったのだと改めて現実を突き付けられる。
「そんな和奏に難癖をつけるのであれば、彼女が余りにも優秀すぎた事ぐらいか。おかげさまで彼女の代役なんてそうはいない、いや、いてたまるか」
「そ、そうなんですねぇ……」
何とも歯切れの悪い言葉を返す事しか出来なかったが、私の脳内はメイド喫茶で見るような衣装を身にまとった自分の姿で溢れかえっており、想像しただけでもげんなりとした気分になってくる。
いや、想像した自分でも意外と様になっているのが妙に
いや、だからといってロングスカート形式のメイド服なら良いという問題でもないのだけれども!
「あ、あの……百合園さん? あの、ですね?」
「君が戸惑う気持ちも分かる。しかし、僕は立ち場上、代役を探さねばならなかった。というのも彼女は来月の4月から百合園女学園の寮母をやって貰う手筈だったからな。……さて、そろそろ本題に入ろうか。僕は和奏に何か遭った時、彼女の代わりに君の面倒を見るようにとお願いされている」
「いや、だから、あの、ちょっと待ってくれませんか百合園さん?」
「うん。だから、君、百合園女学園の寮母もやってみないか?」
「り、りょ、寮母……⁉」
「格式高い我が百合園家は当然ながら使用人の実力も一級品でなければならない。だがしかし、君はどうだ? 汚部屋を一瞬で綺麗に出来る能力。弁当は最高に美味い。そして和奏に負けず劣らずの美貌。これと言って難のない性格。僕好みの美少女。どれも実に素晴らしい。給料は……そうだな、月50万でどうだろう」
「50万⁉」
「おっと、何やら不満のようだ。なら月100万にしてみよう」
「ひゃ、100万⁉」
「ほほぅ、まだ不服のご様子だな? 宜しい、ならば更に給料を上乗せして150万――」
「ま、待ってください! 給料は充分すぎるほどです! 1人で管理できなさすぎるほどです!」
「よし、それでは君の月給は150万円で決まりだな。やはり優秀な人材を採用する際には金を惜しみなく使うに限る。和奏は実に素晴らしい教えを僕に授けてくれたものだ」
確かに掃除も料理も私は得意だから、確かに寮母の仕事は適任かもしれないけれど……だからといって……それは……ちょっと……⁉
「さて。先にも話した通り、我が百合園家の人間は代々理事長をして経営の勉強をするのが家訓でね。だから色々と便宜を図れるし、寝床になる寮もあるから家賃も当然ながら必要ない」
「そ、そんなの至れり尽くせりでは……!?」
「君は和奏の忘れ形見なのだからこれぐらい贔屓してもいいだろう? それで、だ。百合園女学園の寮母になるのだから、百合園女学園に在籍したまえ。無論、学費は全額免除だ」
「え、え、え……えぇっ……!?」
彼女への嬉しさと困惑で頭がいっぱいいっぱいになってしまった私は頭を抱え込む訳なのだけど……いやいやいやいやいや!?
「ま、待ってくださいっ! それは余りにも好条件過ぎますけどっ! そんな事よりも私はですねっ⁉」
「僕が和奏から受けた恩を考えたら少なすぎるぐらいだ。それに寮は僕も利用していてね。そもそも、僕以外に女子寮を利用している生徒はいない。静かで快適で満ち足りた2人暮らしを君に提供しよう」
「いや、あの、そのっ⁉ 私にはとんでもない程の問題があってですね⁉」
「問題なんて気にしなくていい。例え君がどのような問題を抱えていようが大丈夫だ。どうか信じて欲しい。この百合園茉奈に二言はない。君がどんな人間であろうとも君の生活はこの僕が、百合園茉奈が絶対に保証する」
「違うんですっ! 本当に違うんですっ! どうして気づいてくれないんですかっ⁉ 百合園さんは私を根本的に間違えているんですっ⁉ 冗談もそれぐらいにしてくれないと……お、怒っちゃいますよ……⁉ ほ、本気で怒っちゃいますからね……⁉」
「間違えている? 何を? 君は
「私は男ですよっ⁉」
「――は? 何を言ってるんだ君? いや、本当にいきなり何て事を言うんだ君は? 君みたいにとってもかわいくて、和奏にそっくりな素敵な女の子が、男?」
「男ですっ! 私はどう見ても男の子でしょう⁉ 笑えない冗談もそれぐらいにしてくださいよっ⁉」
「君が中学校の時に校内ミスコン3年連続連覇の偉業を為したと和奏が写真付きで自慢してたんだが。あれは僕の見間違いだと言うつもりか?」
「あ、ぅ……うぅ……! 確かにそれはしました……しましたけどっ……! させられましたけどっ……! 姉に無理やり女子制服とドレスを着せられて飛び入り参加したら優勝しちゃって……!」
「普通に考えて学内の美少女を決めるミスコンで優勝した人間が男の訳がないだろう。それに、だ。君が中学校の男子生徒全員から告白されたという武勇伝を和奏から聞かされた。あれも僕の聞き間違いか?」
「ち、ちが……わないんですけどっ……! それも確かにそうなんですけどっ……! 私を男装している女子だと思い込む馬鹿がたくさんいただけでっ……! それでも私は男の子なんです……! お願いですっ……! 信じてくださいっ……!」
「……君、頭大丈夫か? まさか、和奏が亡くなったショックで頭が……?」
「違いますっ! 私は至って正常ですっ! 確かに私は昔から女の子みたいだって言われましたけども!」
「いや、どう見ても女の子だろう」
「男子トイレにいるだけで何度も男性にチラ見されましたけども!」
「女の子が男子トイレにいたら駄目だろう」
「ナンパにも痴漢にも何回も襲われましたけども!」
「君の可愛さなら当然としか言いようがない」
「男子の同級生からラブレターとか初恋を何度も頂きましたが!」
「魔性の女だな、君」
「だからっ! いいですかっ⁉ 1度しか言いませんよっ⁉ 私はっ! 誰がどう見てもっ! 男ですっ! 男の子なんですっ! そ、その……あ、あれが……っぅ~~~~~! おちんちんっ! 私はっ! おちんちんがっ! 付いているんですっ!」
「もしかしなくても、君は嘘をつくのが滅茶苦茶に下手だな?」
「どうして信じてくれないんですかぁ……⁉」
私がどれだけ熱弁しても、目の前にいる人は信じてくれなかった。
寧ろ、幼い人間を見守るかのような生暖かい目をこちらに向けてくる始末だった。
「ふふっ。君は本当にあの和奏の妹だな。和奏は昔から冗談が好きだった。どうやら妹にもその特徴は受け継がれているらしい……が、残念だったな? 昔から和奏の悪ふざけで鍛えられた私はそのぐらいで騙されてあげないぞ? こういうのは手っ取り早く分かる方法があるんだ」
「ちょっ、待っ⁉ 何でいきなり近づいて……⁉」
「心配しなくていい。胸とか、下半身を触るだけだからな。さぁ、服を脱いで僕に可愛がられろ。男の子なんだろう? 僕をリードしてくれたまえよ」
「いや、いやいや……⁉ それは駄目ですって、本当に駄目ですって⁉ 私は男なんですよっ⁉ 貴女は女の子で、私は男の子! ですからそれは本当に不味……きゃっ⁉ だ、駄目……! い、いやっ……! ひ、ひゃぅん!? さ、触らないで……! あっ、んっ……! や、やだっ……! やらぁ……! 慣れた手付きでズボンを脱がさないでくださいよぉ……⁉」
「おやおや? 男の子から女の子の声が出てきたな? ふふっ、これで男の子と言い張るだなんて余りにも杜撰な嘘だな、この噓下手め」
「噓じゃ、ないんですっ……! お願いですから、信じてっ……!」
「それにしても……ほほぅ? 君は和奏と違って胸が無いんだな? 僕の方が胸が大きいのは実に気分が良い。ブラをつけないだなんて実に不用心じゃないか君。そんな綺麗な顔と身体をしているというのに。そんなの悪い人間に襲ってくださいと言っているのと同じだぞ?」
「ぁ……! んぁ……! 乳首、さ、さわるの、だめっ……! や、やめてっ……! そんなにさわられると、わたし、わたしっ……!」
「発達途中の女の子の胸を触るのは実に良い。自分よりも貧しい人間の胸を触るのは優越感に浸れてとても良い。そして何より肌がすべすべとしていて触り心地が素晴らしい。顔も良いし、良い声で鳴くし、本当に最高だな君。さてさて、お次は下半身と洒落こもう」
「や、やめ……っ! やめっ……! やめてぇ……! いやっ……! いやぁ……!」
「ふふ、実に嗜虐心がそそられる悲鳴と涙目だ。だが、これも全部くだらない嘘をついた君が悪い。美少女同士、仲良く親睦を深めよう――じゃ、ない、か……?」
彼女が押し黙ったタイミングは奇しくも私のズボンとパンツの両方を剝ぎ取った後の事であり、彼女は男性特有の例のアレを目にしてしまっていたからというのは想像に難くなかった。
例のアレが一体何なのか?
アレは、アレだ。
「…………なに、これ…………?」
「…………おちんちん、です…………」
とんでもないレベルの美人の、とても綺麗で意地悪な声と、柔らかくてもちもちで冷たくて気持ちいい女の子の指でいじめられてしまった私の身体は、男の子にさせられてしまっていて、そんな見せてはいけない男のアレを目の当たりにさせていたのだ。
「――嘘。キミ、ちょ、待って。話が違う。誰がどう見ても顔とか女の子じゃん。こんなの罠じゃん。待って。私は悪くない。違うの。全然違うの。私はそういうつもりでキミを脱がした訳じゃ、いや顔とかはすっごく好みだけど……えっと、その……あの、ごめんね? その、責任とか、そういうの、ちゃんと取るから。百合園茉奈に二言はないし、うん……だから、ね? えっと、ね? その……末永く宜しくというか、幸せにしてねというか……責任、とってね?」
拝啓、天国の姉さん。
私は貴女の雇い主に汚されました。
あぁ、姉さん。
なんで私の事を雇用主相手に妹だって嘘をつきやがったんですか、この野郎。
「……私よりも綺麗でかわいい顔と身体してるのに……へぇ……? 唯は男の子なんだねぇ……?」
「ゆ、百合園さん……? 目が、怖いですよ……?」
「……こんなの、もう普通の男の人に一生興奮できないよ……!」
「ふぇ……? あの、なんで私を押し倒して……?」
「……ごめんね? 私、思春期だから、そういうの、ちょっとだけ興味あるんだ。唯はそういう女の子、嫌い?」
「ひゃんっ……⁉ 耳元で囁くの、やめてっ……! 身体に力、入らなっ……!」
「唯は優しいね。男の子ならその気になれば女の子なんて振りほどける癖に。それとも、何だかんだで下心があるのかな?」
「下心なんてっ、そんな訳っ……! 私、本当に耳が弱くてっ……! 耳をいじめるのっ、やだっ……! 本当にやめてっ……!」
「……自分から弱点を教えてくれるって、そういう事だよね?」
「んっ……! な、なんで……⁉ や、やめてって言ったのに……⁉ どうして、耳を……んんっ……! ぁふんぅ……! んぁぅ……!」
「……ふぅん……? 気持ち良いんだ……? 女の子の顔をしている癖にそういうところはしっかり男の子なんだね……? 息を吹きかけただけで何も出来なくなる唯は本当に可愛いね……?」
追記、天国の姉さん。
私はどうやら貴女の雇い主の性癖とやらを壊してしまったようです。
頬を赤らめながら、瞳の光が弱くなった状態でこちらを舐めまわすように見てくる彼女の目つきのソレは誰がどう見ても犯罪を犯す寸前の変質者のソレでした。
「待っ! お願いだから待っ――⁉ いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ⁉ やだっ! やだぁっ! たすけっ……! 姉さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
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