エピローグ

 次男に朝食が終わったら長の元に行くようにと命じられた。特に心当たりがないので、不安になる。小馬車の扉を、ノックしてから開く。

「長が呼んでいると聞いたのですが」

「あら、キャシーじゃない。お父さんなら、裏にいるわよ」

 長女にお礼を言って、小馬車を後にする。ぐるりとまわると、長とピエロと、見知らぬ女がいた。ピンク色の珍しい髪をしている。

「長、お呼びですか」

「ああ、やっと来たか」

 長はいつになく機嫌がいい。にこにこしすぎて、逆に気持ち悪いくらいだ。その顔のまま、ピンク髪の女を手で示す。

「彼女がね、今日から我が一座に入ってくれることになったんだ。君は知らないかもしれないけど、彼女はロゼットという珍しい血筋でね。しかも、踊り子の経験もあるそうだ。いやあ、無料でこんな子を手に入れられるなんてラッキーだな」

 声をあげて下衆な笑みを隠すこともなくまき散らす出長。もう無視することに決め込んで、女に向き直る。

「はじめまして。踊り子のキャシーです。よろしく」

 差し出した手に、真っ白な手が触れる。

「リベルといいます。長さんにあなたからここでの生活を教えてもらえと言われました。よろしくお願いします」

 声も見た目通りかわいいし、礼儀正しい。血筋だとかは知らないが、そんなもの抜きに売れっ子になれる。

「あなたみたいな人が、何故こんな無名の一座と無償契約を?」

 リベルは綺麗に笑って言った。

「大好き人と、一緒にいるため」

「大好きな…」

 リベルは後ろを振り返った。そこには、小さくしかし確かに優しい笑みを浮かべたピエロがいた。そうか。

「ピエロ」

 ピエロが私を見る。何年か前に、一度手をつないだ。そのときに書いていたことを思い出す。

『僕は言葉がないから、言いたいことをそのとき言うことができない。だから、伝えられなかった』

 きっとその想いを伝えられなかった相手が、リベルなのだ。彼の瞳が向いていたのは、いつだってこの子一人だった。どれだけ想われているか、リベルは気づいているだろうか。あのときのことを、今度話してあげよう。まあ、私が告白したことは聞かれたって教えないけど。

『僕はこんなだから、誰かに好きになってもらうなんて事、絶対にないって思っていた』

 それは違うよ。だって、リベルはずっとピエロが好きだったんだろう。

「大切な人に、会えたんだな」

 ピエロは笑ってうなずいた。

                ―――Fin.

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Pierrot 桜田 優鈴 @yuuRi-sakura

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