第九章 大切な人 第2話
瓶を全て机に置くと、観客の一人がピエロの肩を叩いた。
「まったく、はらはらさせやがって」
満面の笑みを浮かべた人々が、労いの言葉をかけていく。しかしピエロはその声に応えず、ぺこりとお辞儀をするのみだ。
「なんだよぅ。ピエロはしゃべんないって知ってるけどよ、一言くらい話しても罰はあたらんぜ」
パン屋のエプロンをしたおじさんが冗談めかして言う。みんなおじさんに同調した。
「すみません。こいつはしゃべらないのではなく、しゃべれないんですよ」
シルクハットをかぶった男が、口を挟む。どうやらこの一座の責任者らしい。私は自分の鼓動が早まっていくのを感じた。…しゃべれない。まさか、ピエロは。ピエロに視線を移すと、彼は私のことを見つめていた。ああ、この瞳には前にも見つめられたことがある。
「あなたは、ハートのキングですか」
ピエロはこぼれる涙を隠すようにうなずいた。
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