第七章 あの日の記憶 第8話
がたん、とドアが開き、大男たちが入ってきた。私たちは息を潜め、しかし目だけは光を失うことはない。
「ショータイムの幕開けだ。移動しろ」
全員の足首から伸びていた紐が、つながれていた柱からほどかれ、大男が引っ張っていく。逃げる隙はないようだ。連れて行かれた薄暗い部屋に差し込む光の先には学校の体育館にあるようなステージがあり、座席にはたくさんの人が入っていた。気づけば移動先の部屋の柱に再び紐がつながれていた。
「番号の確認をさせていただきます」
ステージの上にいるのは、紳士ぶっていた男。また紳士のふりをしているのが見える。
「一番、コルダ劇団様。二番、チュラナ座様。三番…」
いよいよ売られるとそわそわとする子供たちの中で、♥Kだけが一点を見つめて耳に手を当てている。♥Kは、アナウンスを聞き漏らさないようにしているようだった。そこではっとする。彼は番号を覚えようとしているのだ。覚えて、誰がどこに買われたのか把握できるようにするのが目的。私も意識を耳に集中する。
「三十六番、ミナル研究所様。三十七番、ワノデ商社様」
まだまだ続く。覚えにくい名ばかりで、既にごちゃごちゃになってしまっている。隣を窺うと、真剣な顔の♥Kがいた。
「八十三番、ワレチュ楽団様。八十四番、コナ様。八十五番、デルナベ一座様。以上でございます」
紳士のふりが礼をして、舞台袖に帰ってくる。
「覚えられた?」
小声で♥Kに聞くと、しっかりうなずかれた。そうとうな記憶力の持ち主らしい。
「お前からだ。さっさと立て」
最初にステージに立ったのは、♠Q。残った七人が固唾を呑んで見守る。両脇を大男に掴まれ、司会は紳士かぶれが行う。
「何か特技は」
緊張のあまり言葉を失っている♠Qを大男がどつく。
「早く答えろ」
しかし、頭が真っ白になっているらしい♠Qは口をわなつかせるのみだ。イラつく大男は客に見えないようにしながらも、背中を殴る。その痛々しさに子供たちが目を逸らしかけた、そのとき。
「一千チルド」
「五十七番様。ありがとうございます」
響いたのは太い男の声がひとつ。それ以外の客は声をあげなかった。
「それでは、五十七番様の落札とさせていただます」
♠Qはそのまま五十七番の客に引き渡される。
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