第七章 あの日の記憶 第7話
「みんな、聞いて欲しいの」
一斉に、十四の目が私を捉える。
「私は今まで、何の不自由もない日々を送ってきた」
「何。自慢したいわけ」
♦Qに睨みつけられる。慌てて首を横に振った。
「私たちリルソフィアの子供は、街から外に出たことがなかった。街の中しか知らずに育ってきた。知ろうとすることをしなかった。だけど、私はこの目で街の外を見たの。生と死の狭間にいながら、それでも起き上がる人々を」
小さな声で♠Kが発言する。
「君が見たのは、この国のほんの一部だろう。もっと悲惨だよ、ストナレア国の実態は」
その言葉は、ぐさりと私の胸を刺した。やはり、私なんかが言えることではないのだ。俯きかけたとき、手を痛いほどに握られた。♥Kの瞳には光があった。その光が、私を照らす。目が覚めた。
「確かに私は何も知らない。無知な子供。それでも、どんなに深い闇の中でも、幸せはあると思うの」
♠Qが手を上げる。
「あの、ハートのクイーンの幸せって何ですか」
リルソフィアでぬくぬくと大人になるのは、幸せとは違う気がした。私はもう、あの日々を受け入れられない。じゃあ、私の一番の幸せって、何だろう。これからみんな売られてばらばらになる。生きていられないかもしれない。生きていられればいい。でも、更に望むことが許されるなら。
「もう一度、八人とめぐり合うこと」
一拍あけて、♦Kが鼻を鳴らした。
「馬鹿馬鹿しい。そんなこと、できるわけ…」
私の真剣な眼差しに、♦Kが言葉を失くした。
「本気で言ってるのか」
「はい。…確かに、すぐには無理だと思う。でもいつか自由を手にして、私たちは再会する」
「僕はできると思うよ。だって、ムナとは生まれる前からずっと、離れずにいられてるんだから。八人くらい、一緒にいられるよ」
♣Kに被せるように、♣Qも声をあげる。
「ムナはね、ずっとずっと、ジェムシーと一緒なの。お母さんのお腹の中にいるときから、離れたことはないの」
二人の無邪気な声に背中を押された。
「数年後もう一度出会ったときに、八人全員が自分は幸せだって、言えること。それが私の望みであり、夢」
言い切ると、胸の奥にあったイガイガがすっと消える感覚がした。
「私、待っています。再会の日を」
髪を揺らして♠Qが笑った。
「僕たちは二人でいれば幸せだから、いつでも会いに来ていいよ」
♣KQも満面の笑みで答える。
「幸せなんてよくわからないけど、努力しとく」
首元のあざを隠しながら、小さく微笑む♠K。
こんな状況でも、笑うことはできる。大丈夫、私たちなら幸せになれる。
「そんなの、ただの綺麗ごとよ」
流れを断ち切るように、♦Qがそっけなく言い返す。
「夢物語だね。現実味がない」
♦Kもきっぱりと否定する。傷つきかけた私の隣で、影が動いた。驚き見ると、怒りを露わにした♥Kが、口をパクつかせている。言い返してくれようとしたのだろう。
「ありがとう」
肩に手を置き♥Kを止める。味方になってくれたことが単純に嬉しかった。
「今は夢物語だと言ってもらって結構です。でも、数年後、私はあなたたちに会いに行く。そのときまでに、幸せになっていて」
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