第七章 あの日の記憶 第3話
酷い頭痛と共に目を覚ますと、そこは朽ちた木の匂いの充満する場所だった。靄がかかった思考をなんとか稼動させ、自分の置かれている状況を理解しようと首をめぐらせた。視界に入るものを順に観察する。薄暗い室内で認識できたものは僅か。大樽、今にも抜けそうな床、瓶や何かがのった小さな机、そしてボロ布の塊が六つ。左の足首に違和感を覚え、焦る気持ちを必死でこらえ自分自身に目を凝らす。手で触れると、ささくれ立った低質な太い紐が結ばれており、どこかに繋がれているようであった。服は着た記憶の無いボロで、肌が擦れる度にざらざらとして痛かった。身につけている布切れをどこかで見たことがあるような気がして、一瞬考えてから顔を上げた。この部屋にある不気味な六つのボロの山。そのひとつひとつが微妙に動いている。生命を感じた。私と同じ目にあった子が六人もいるのか!息を飲んだのと同時に、ぱっと急激に周囲が照らされた。強すぎる光に耐え切れずに思わず瞑った目を少しずつ開いたが、暗さに慣れていた目が眩んで、何も見えない。それでもしばらくすると先ほどまで見えなかったこの小部屋の全体が明らかになってきた。光が点く前は存在しなかったはずの三人の男が部屋の入り口に立っている。その顔にはどれも覚えがあり、私を無理やり連れ去った連中だと思い出した。この突然現れた光の源は天井の電球だと知る。光の下で見るボロたちはやはり人間だった。しかし、六人ではなく、ひとつはぴったりと寄り添って眠る五歳くらいの男の子と女の子だった。残りは一塊が一人で、私も含め女子と男子がちょうど四人ずつ、八人の子供が皆息を潜め、お互いを探り合っていた。
「チビ以外は起きたか。ショータイムは深夜だ。まだ時間はあるからな。せいぜい同じ境遇同士、悲しみでも分かち合っておくんだな」
下品な笑いと共に、紳士ぶっていた男が部屋を出る。ショータイム、とは何。
「御頭、間違ってる。ピンクいのは俺たちで連れ去ってきたんだから、同じ境遇って言えないよね」
「細かいこというな。それより、早くこいつらに名前付けないと、面倒だぞ。ピンク以外はこれといった特徴ないし」
大男二人の会話を聞いた子供たちは、私のほうをちらちらと窺ってくる。このときから、大好きだったこの髪を嫌いになった。
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