第五章 伝言を 第3話

「手詰まりってまさか、俺以外の全員に会ったわけじゃないんだろう?」

 冗談で言ってみる。八からピエロ自身と♥Qを引いて六。この貧しい国で、広範囲にばらばらに散らばった六人と会うなんて大変なことだ。ましてや、ピエロは富裕層ではない。費用だって、そんなにかけられるわけではないだろう。

『♥Q以外には、全員会えました』

 差し出された紙に並んだ文字を理解するのに、数瞬を要した。

「全員って、六人にか」

 首肯するピエロ。

『残念ながら、生きた姿ではない方もいらっしゃいましたが』

「…そうか」

 酷い労働をさせられ、辛いばかりだと思っていた自分の人生。でも、少なくても今こうして生きている。それを幸せだと思ったら、爺くさいか?

「俺、やっぱ夢物語、叶うと思うわ。だってまだ生きてるし。この仕事、すぐ死ぬんだ。でも、俺は生きてる。それって、幸せにカウントしてもいいよな」

 ピエロは首を大きく縦に振った。

 鉱山から出ると、久しぶりに星空と冷たい夜風を感じた。そこでようやく、今が夜だと知る。

「しかし、皮肉なもんだな。一番会いたいやつにだけ会えないなんてよ」

 隣を歩くピエロに話しかけたが、何か書く様子はなかった。代わりに、地面に膝をつく正式な礼をした。もう帰るらしい。

「悪いな。力になってやれなくて」

 首をゆっくりと横に振る。ピエロは、俺の寮とは反対のほうに歩き出した。大きすぎる青い服が、どんどん小さくなっていく。一度会えただけでも奇跡。二度目は多分、ない。俺は、大きく息を吸い込んだ。そして、のどが破れそうなほどに、小さな背中に向かって叫ぶ。

「ハートのクイーンに伝えてくれ。俺はあんた望み通り、幸せになったってな!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る