第五章 伝言を 第2話

 二人きりになったのは良いものの、こいつの正体がわからない。Kといわれて思いあたるのは俺を含めて四人。妹と引っ付いて離れなかったちび、女みたいな優形の男、一言もしゃべらなかった男…こいつか。

「あの時は怖くてしゃべんないのかと思ってたけど、違うみたいだな」

 試しに鎌をかけてみる。

『ピエロですので』

 一応、あの日にしゃべらなかったことを否定しない返事。こいつはあの、鷹みたいに鋭い目をしていたガキで合っているようだ。

「そのピエロさんが、今更俺のとこに何しに来た。というより、何で俺がここにいるってわかった」

 不気味なほどに表情が変わらない。何を考えているか、全く読めなかった。

『あなたの居場所を知りえた理由は、ごく簡単なことです。あの日の順番からして、僕はあなたの行き先を知ることができた。そして、あなたは職場を変えていなかった。当時のままです』

 ピエロの返答を読んで、素直に驚いた。順番なんて覚えてなどなかったから、盲点だったのもあるし、全員の行き先を記憶できたということがありえないことのように思った。

『八年も経って僕がここに来た理由ですが、これは二つあります。まず一つ目。あなたは忘れてしまったかもしれませんが、♥Qが望んだ未来。あれが現実となっているかを確かめるためです』

 ♥Q。ロゼットの血筋の娘か。何故かあの娘が語った夢物語を、はっきりと思い出すことができた。現実味のない、理想まみれの綺麗ごと。そう罵ったはずなのに、忘れることはできなかった。

「覚えているよ。ハートのクイーンのことも、その姫の望みとやらも。残念だが、俺はあの理想通りにはなってないね。ピエロはどうなんだよ」

 ピエロの手は、なかなか動き出さなかった。ようやく書かれた文字は、『ほんの少し、現実になりました』という、あやふやな返事。

『それを完全にするために、ここに来たと書くのが妥当だったかもしれません。僕がここに来た二つ目の理由は、♥Qの居場所を知るためです』

 薄れかけていたあの日の記憶が、ピエロと話しているうちに鮮明になってきた。そうだった。この男は、♥Qを…。

「でも、お前はあの日の順番を覚えているんだろう。だったら、俺がハートのクイーンの居場所を知り得るわけがないってわかるだろう」

『確かにそうです。でも、もうあなたしかいないのです。正直もう手詰まりで』

 相変わらす表情は一切変化しない。それでも、ピエロが真剣だということはわかった。

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