第四章 森を抜ける間だけ 第3話
「あの、さっきはありがとう。私を外に出してくれて」
前を行く背中に話しかけてみたが、返事はなかった。そこでふと、彼の声はどんな風なのだろうという疑問が生まれた。後ろから見ると余計だが、彼はしっかりとした体格をしていた。かといって露骨に筋肉があるわけでもなく、すらりとした長身で、ゆうに百八十センチはあるかもしれない。きっと、声も聞きやすい低音なのだろうなと勝手に想像した。ぼふっと、何かに突き当たる。いや、前にいたのはピエロだから、ピエロにぶつかったのだ。
「ごめん」
痛む鼻をこすりつつピエロの横に並ぶと、ピエロが立ち止まった理由がわかった。私たちの立っている地点で森が突然終わっていたのだ。そして、本来なら木のあるべき場所にあったのは…墓だった。どこを見ても、墓墓墓。まるで元々木があった部分にそれぞれ墓を作ったのではと思われるほどだった。
「ここは一体」
ピエロは私の問いには答えず、墓に向かっていった。薄気味悪さに足がすくんだが、ここで離れるわけにはいかない。距離をとらないようにぴったりついていくことにした。
しばらく墓地を歩いているうちに、いくつかわかってきたことがある。まず、ここにある墓の形が全て一緒であるということ。つまり、ここはひとつの組織又は人間が作った墓であるということだ。次に、墓石に刻まれた死去した日が、同日のものが多いこと。試しに数えてみると、一気に二十人近くが亡くなっている日があった。最後に、ピエロは誰かの墓を探しているということ。彼の目は、名前だけを注意深くおっていた。
「ここは、何の墓なの」
きっと答えてくれないだろうと思いつつもらした疑問に、ピエロは意外にも紙を取り出した。
『ここは、実験動物の墓だ』
「実験?一体なんの。というか、マウスにこんなかわいい名前をいちいちつけるわけ」
こんなにたくさんの名前を逐一考えるほど暇なのだろうか。
『誰もマウスなんて書いていない。人間だよ』
「は?人間て、人体実験!?」
『それ以外の何がある』
表情ひとつ変えずにとんでもないことを書いてのけるピエロが、恐ろしく感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます