第三章 己の価値 第1話
この世界に平等など、無い。信じられるのは、己のみ。
「シェル、休憩だ」
裏口から外に出る。大きく息を吸い込むと、久しぶりに新鮮な空気が体内に入り込む感覚がした。そのまま、すぐ脇のゴミ箱に腰掛ける。どうせまたすぐに呼び出されるのだ。このままでいい。最近、客の目当てのほとんどが私だった。多くの常連客を持つほど儲かるのでそれはそれで喜ぶべきことだ。ここに連れてこられてからずっと、店長は私をシェルと呼ぶ。客や仕事仲間からの愛称は、シー、シルル、エルなど、様々だ。…しかし、私の本当の名を知っているものはここには誰もいない。偽りだらけ。それが私。カタカタと相棒の傀儡を動かしてみる。今では思い通りに動かすことができる。こいつだけは、私を絶対裏切らない。だって、私なのだから。
「すごい。かわいい」
いつの間にか、目の前に髪を二つにゆるりと結んだ子供がいた。小汚い身なり。そもそも、こんな夜遅くに外にいる時点で、まともな生活をしていないとわかる。私はガンっとかかとでゴミ箱を蹴った。
「これは子供のおもちゃなんかじゃないの。とっとと失せなさい」
びくりと肩を震わせ、子供は涙目になる。
「泣いたら何とかなるとか、思ってんじゃないわよ」
涙なんて、何の役にも立たない。子供は、慌てて私の前から逃げた。子供なんて、嫌いだ。無力で、そのくせ自尊心が強い。
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