第一章 私は今 第4話

「なにぼけっとしているの。帰るわよ、サロア」

 自分ではなく召使が選ばれたことが癇に障ったらしい。お嬢様は輪を抜けてしまった。あわてて追いかける。人垣の外では、かごを持った十歳くらいの女の子がいた。

「観覧料を」

 それだけ言って、お嬢様に向かってかごを出した。私はそこまで至ってようやく、彼が旅芸人の一員なのだとわかった。

「お金なんて、くれてやるわよ」

 そうとうご立腹らしいお嬢様は、金貨を何枚かかごに入れた。私は後ろにいたため正確にはわからないが、かなりの枚数を出した気がする。

「あ、ありがとうございます!」

 女の子もかなり驚いたようだ。お嬢様は返事をせず、早歩きで行ってしまう。必死についていき、私たちは馬車を待たせていたところに着いた。家はもっと高台の高級地にある。騎手が私たちに気づき、ドアを開けてエスコートした。

「あら、サロアそれ」

 馬車に乗り込んでから、お嬢様が私の手元を指して言った。私の右手には、カードが握られたままだった。

「あっ、返し忘れて持ってきてしまいました。どうしましょう」

「でもそのカード、あなたへのメッセージが書いてあるみたいだし、どうせもう使わないんじゃないかしら」

 確かに。納得した私は、ポシェットにカードを丁寧にしまった。

 あの道化師は誰だったのだろう。カードに書かれたメッセージを思い出して、はっとした。

『♠Qの幸せを願って』

 普通なら、「あなたの幸せを願って」と書くのではないだろうか。そこをあえて「♠Qの」と書いたのは…!

 あの日…五年前の一夜が、鮮明に浮かび上がる。悲しみに満ちたあの夜を共にした七人の顔は、なぜか今でもはっきりと思い出すことができた。あの道化師は誰だったのだろう。今度の問いの選択肢は四人に絞られていた。Kを与えられし四人の男の子。白塗りの顔では、残念ながら判別できなかった。それでも、ばらばらになった運命の中から、再びめぐり合えたことは事実。

 心の中で、五年前の姿のままの七人に呼びかける。

「私は今、幸せです。あなたたちも、幸せですか?」

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