第5話 『お兄さんは、意地悪♪』【お耳マッサージ/お耳かき】

(※主人公が反対を向く衣擦れの音)




(※以降は左耳で各種音が聞こえる)




「……そっか。反対を向くと、お兄さんの顔が私の方を向くんだ」


「お腹にお兄さんの息がかかって、変な感じ。くすぐったい」


「あと、たくさん汗かいたから……臭い、大丈夫そう?」


「も、問題ないなら、良い……。それじゃあ、さっきと同じでマッサージからしていく」


「クリームをたっぷり取って……左耳、失礼します」




(※水部を含んだ、左耳を揉まれる音)




「ふふん。もう、コツは掴んだ。きっとプロも顔負け。お兄さんは骨抜き」


「優しく、でも、ちょっとだけ力を入れて、揉み、揉み……」




(※左耳を揉まれる音)




「む……。右耳と左耳でも形が違う。興味深い……」




(※左耳を揉まれる音&リエステの吐息)




「お兄さん。今からくぼみに指を入れる。……気持ち良くなる準備、良い?」


「ふふ、良い子♪ それじゃあ……えい」




(※左耳を強めにさする音)




「やっぱり、ビクッてした。気持ち良くなってくれてるなら、私としてもやりがいがある」


「じゃあ右耳の時と同じように、お耳の裏も……」




(※左耳を揉まれる音&吐息)




「ふぅ……。ん、マッサージ、お終い。またタオルでクリームを拭きとる」


(※タオルで耳をこする音)


「ん。それじゃあ、耳かき、していくね?」


「最初は浅い所を……かき、かき」




(※耳かきの音)




「こっちにもたくさんの耳垢。やりがいがある」


「体力? うん、大丈夫。神経を使う作業だけど、長い時間集中するのは得意」


「だから、心配無用」




(※耳かきの音&吐息)




「どうして私が転移魔法を研究してしたのか? 私のことが聞きたい?」


「ふふ、変な質問。けど、答える。お兄さんには、私を知る権利がある」


「ただ、自分語りは恥ずかしい。その羞恥心を理解して言ってるんだとしたら、お兄さんは意地悪♪」


「ううん、私に対して遠慮はいらない。むしろ、当たりがきつい言動に、なぜか少し興奮している私がいる。だから、どんどん攻めてくれて大丈夫」


「ふふん。そう。その憐みの視線が、好き♪」




(※耳かきの音&吐息)




「私は運動が苦手。というより、動くのが嫌い。楽して生きていけるのが一番だって思ってる」


「歩くことさえ面倒だから、いつもお手伝いさんに身の回りの世話は任せていた」


「うん、そう。こう見えて私は意外と偉い人。エッヘン」




(※耳かきの音&吐息)




「でも、前提として、私が指示しなくてもお手伝いさんたちが全部してくれてた。それこそ、働きすぎだと思えるくらい」


「私がいくら『休んで』って言っても『これが仕事だから』の一点張り。だから私は、お手伝いさん達が楽できるような魔法とか道具を研究していた」




(※耳かきの音&吐息)




「転移魔法の研究も、その1つ。お手伝いさん達の寮と、宮廷にある私の部屋は凄く遠い。毎日通うのも大変。だったら、いっぺんに色んな人を運べたら楽でしょ?」


「トイレとか、私が来てほしい時にお手伝いさんは来てくれるし、お手伝いさんも夜通し私の部屋に居なくて済む。便利で、効率的。そう思った」


「……ん。そろそろ深いところ、やってく。気持ち良くなる準備、してて」


「大丈夫。右耳の時に要領は掴んだ。話しながらでも、余裕はある」




(※耳かきの音&吐息)




「私は、魔法でみんなが楽になる方法を探してた。その実験の失敗でここに来ちゃったわけだけど……」


「ニホンに来られたのは、きっと運命。魔法がないぶん、ニホンには便利なものがたくさんある」


「冷蔵庫もそうだけど、洗濯機、瞬間湯沸かし器。あと家電の神様『電子レンジ』。そのどれも、アステア王国には無い発想で溢れている」


「そう。チキュウは、楽をするための文化がすごく発展している」


「だから、ここでたくさん勉強して。向こうに帰ったら、チキュウで学んだ知識を使って色んな人に楽をさせたい。みんながだらけられる。そんな世界を、作りたい。それが、私の夢」


「……どう? 少しは私のこと、お兄さんに伝わった?」


「ふふ、それなら、良かった」


(※耳かき)


「お兄さん、気持ち良さそう。だったら、この調子で……」




(※耳かき&少し荒くなってきた吐息)




「はぁ、はぁ……ふぅ。ふふ、もうちょっと♪」




(※顔に水が滴る音)




「ごめん、また、汗。いま拭くから」


(※タオルで顔を拭く)




(※耳かき&荒い吐息)




「ふぅ~……。お掃除、お終い。それじゃあ梵天ぼんてん、使っていくね」


「頑張ったお兄さんのお耳をいたわるように……こしょ、こしょ」




(※梵天で耳をこする音)




「ふふふっ♪ お兄さん、だらしない顔」


「もう一回。優しく、撫でるように……こしょ、こしょ」




(※梵天で耳をこする音)




「ん。最後に……」




(※左耳に息を吹きかける音)




「お疲れさまでした。これで、お終い」


「私の我がままに付き合ってくれてありがとう、お兄さん」


「もし他に、お兄さんが私にやって欲しいことがあったら言って欲しい」




「きっと、私が叶えてあげるね」




「……ところで。耳かきで1つだけ、私の想定外の事態が発生している」


「お兄さんを膝枕していた足が、少しも言うことを聞かない」


「ふふん。動かそうとすると、凄まじい痺れと痛みが襲ってくる。こんな痛み、私、知らない」


「しかも困ったことに、おトイレに行きたい。でも、私は動けない……」


「ふふ、動けるようになるのが先か、我慢の限界が先か……。これから私、どうなっちゃうのか。ちょっとだけ、楽しみだね?」


(※主人公が立ち上がる衣擦れの音)


「立ち上がって、お兄さんはどこに……って、お昼ご飯の食材を買って来る?」


「ふふ、この状態の私を放置していくお兄さん、鬼畜。でも、私が喜ぶことを分かってやってる優しい所が、好き」


「あ、ドン引いてる……。その視線もご褒美。でもそれ以上刺激されると本当に漏れるから、やめて欲しい」


「善処は、する。けど、床と衣服が汚れたら、ごめんなさい。もちろん、洗濯と掃除はさせてもらう」


「『死ぬ気で我慢しろ、ってでもトイレに行け』……? って。女の子に地をえと言うお兄さんは、まさに外道。でもトイレのドアを開けてくれてるところに優しさが見える。好き」


(※玄関へ向かう主人公の足音)


(※玄関ドアを開ける音。その背後、少し遠い位置で)


「行ってらっしゃい、お兄さん。帰ってくるまでに、次の恩返し、考えておくね」

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