第2話 『50歩も歩けば倒れる自信がある』【氷の音/】
(※玄関ドアを開ける重めの音)
(※主人公の足音)
(※リビングの扉を開ける軽めの音)
「あっ、お兄さん。お帰りなさい」
「お兄さんはそこに座って待っててほしい。いま、冷たいお水、持って来る」
(※主人公が座る衣擦れの音)
(※遠くでリエステが氷をグラスに入れる)
(※近づいてくるリエステの足音)
(※リエステがコップを机に置く。コップに入った氷が鳴る)
「お仕事、お疲れ様。外も暑いし、氷の音と冷たい水で涼んで欲しい」
(※コップ内で揺れる氷)
「ふふ、冷蔵庫って便利。私も似たような魔道具を作ったけど、低温を維持するのはかなりの魔力がいる。宮廷にあるクラスの家具が個人の家庭にあるチキュウは、すごい」
「あっ、そんなことより。冷たいうちに、飲んで飲んで」
(※主人公がコップを傾け、水を飲む。氷が鳴る)
「おー、すごい飲みっぷり」
「まだ、足りないよね? ふふん、おかわり、持ってくる」
(※リエステが歩いていく)
(※遠くでリエステが氷水をグラスに入れる)
「おっとと……」
(※よろけながら近づいてくるリエステの足音)
「ふふ。……どぞ」
(※コップを机に置く音。コップに入った氷が鳴る)
「目が覚めたら家の中だった。不審者の私を家に置くなんて、お兄さん、不用心」
「……でも、良い人。ありがとうございます」
「うん? 目を覚ましたのはお昼ごろ。そこからお兄さんの部屋にある本と資料で、チキュウのこと勉強させてもらった」
「ふふん。少なくとも、大体の文字は読めるようになった。こう見えても私、勉強は得意。どや」
「ニホン語も練習した。発音、違和感ない?」
「……そう、なら、良かった」
「ところで、お兄さん。私もお水、飲んで良い?」
「そう。人様のものを無断で食べて飲むのは良くない。そう思って、我慢してた。けど……」
(※リエステの汗が滴る音)
「はぁ、はぁ……。ニホンの暑さは王国とは比べ物にならない。日が暮れても、なお暑い」
「そろそろ、限界、かも知れない……。実は今も、視界が揺れてる……」
「……ふふ、そう。きっと脱水症状」
「宮廷に居たときは身の回りのことを全部お手伝いさんがしてくれてた。不便も、我慢も無かった。だから、死にかけるのは初めて。……新鮮♪」
「そう? それなら、ありがたく頂きます」
(※氷の音。リエステが水を飲む喉の音)
「ぷはぁ……。生き返る。危うく死ぬところだった」
「でも……。ふふ、貴重な体験が出来て良かった」
「ところで、お兄さんに相談がある」
「なにぶん、知らない世界に転移するのは、私は初めて。どうすれば良いのか、全く見当がつかない」
「そこで、第1現地人かつ優しいお兄さんに、意見を聞きたい。私はこれから、どうすれば良いと思う?」
「コノヨンに帰る? ……出来なくはない。転移に必要な魔力を生成出来たなら、コノヨンに戻ることは出来ると思う。ただ……」
「チキュウには、なぜか魔力が無い。だから、私自身の魔力生成に頼ることになるけど、転移にはかなりの魔力が必要」
「それに、なけなしの魔力も翻訳魔法で使い果たした」
「ふふ、ままならないね?」
「けど、過ぎたことは仕方ない。切り替える」
「魔力が回復するまで、どれくらいかかるのか? ……ふむ」
「カレンダーで確認した限り、チキュウでの1年は365日。時計は12までしかなくて、お昼過ぎに見たら1を指していた。恐らくは1日に2周する。つまり、1日は24時間。合ってる?」
「ん。それから、いま現在魔力の回復具合からして……」
「コノヨンとのちょっとした時間のズレを考慮しないなら、最低でも3年はかかる計算。その間、私はどうにかしてチキュウで生きないといけない」
「何よりも問題なのが、私の体力。宮廷にこもりきり。ベッドの上でゴロゴロ魔導書を読みふけるのが、私の仕事だった」
「だから、自慢じゃないけど、ぜんぜん体力が無い。ついでに筋力もない」
「どれくらい? ……ふふん。50歩も歩けば倒れる自信があるし、文庫本よりも重い物は持てないと思う」
「あと、今こうして話しているだけでも、息が上がってきてる。舌もつりそう。……ふふ、苦しい♪」
「可哀想なものを見るお兄さんの目、なぜかゾクゾクする。……あ、もっと冷たくなった♪」
「こんな私が生きていける場所がチキュウにあれば、教えて欲し――即答。やっぱり、無い?」
(※リエステが立ち上がる動作音。衣擦れの音)
「分かった。とりあえず、ゆっくりと生きる方法を探してみる。おっとと……」
(※リエステがよろける、が、転ぶことは無い)
「どこに行くのかって? それは、未定」
「でも、大丈夫。窓から見てた限り、チキュウは魔物も居ない平和な場所。路上に居ても魔力を使う事態……戦闘にはならないはず」生活音
「それに、お兄さんがそうだったように、良い人もたくさん居るはず。寝床や食べ物を分けてくれる人がいることも、十分に期待できる」
「それじゃあ、お兄さん。お世話になりました。今の私に差し出せるものと言えばこの宮廷魔導士のローブくらい。良い生地を使ってるはずだから、質屋に売ればそれなりのお金になるはず」
(※リエステが主人公に服を渡す)
「大丈夫。日本は暑い。薄い肌着だけでも、十分やっていける。ニホンのこと、教えてくれたお礼として、受け取って欲しい」
「ふふ、良い子♪ ……それじゃあ、お世話になりました」
(※リエステが遠ざかっていく)
(※玄関の扉が開く音)
「ふん、ぬぬぬ……あぅっ」
(※遠くでリエステが倒れる音)
(※主人公の足音)
「ふ、ふふふ……。忘れてた。私、今日、たくさん喋って、動いてたんだった」
「それに、想像以上に玄関の扉を開けるのに筋力が必要だった」
「つまり、体力切れ。もう起き上がることも出来ない。あと、地味に足がつってる。痛くて、たまらない……♪」
「……それに、玄関先の床が冷たくて、気持ち良い」
「ふふ。残念なものを見る目で私を見下ろすお兄さんに、お願いがある。さっき格好をつけたばかりで、しかも地面に寝転んだまま頼みごとをするのは、死んじゃうくらい恥ずかしいけど、聞いてくれる?」
「良かった。やっぱり、お兄さんは良い人、好き。ということで、コホン……」
「今日1日、私をお兄さんのお家に泊めてください」
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