第6話 まだ秘密
「もう日曜日になってしまった…………」
結局、あれからなんとなく気まずいまま今日を迎えてしまった。気まずいのは自分だけかもしれないけれど、やっぱりどうしても分からない。なんで凪さんは、自分を遊びに誘ったのか。
さらに謎なのは、クラスの女子達で今週遊びに行く予定を断ってまで来るらしい。あくまで噂に過ぎないけれど、こういうのは基本的に信憑性が高い。本当だとしたら、やっぱりどうして自分を選んだのか。選んでくれたのか、分からない。
「あっ、ごめん~! 待った?」
「う、ううん。今着いた所」
適当に誤魔化す。『本当は気持ちの準備がしたくて、一時間前から近くのカフェに入ってアイスコーヒー頼んで待ってた!』なんてことは言えない。
「それじゃ行こ~!」
「あ、うん」
因みにだけど、今日自分は何も聞かされていない。用意できる範囲でお金を持ってきてと言われたから、一応貯金から5千円程引き抜いてきた。一応バイトやらウェブライターやらで収入はあるから、これくらいは何とかなる。高校生になってからお金を使う機会が格段に上がったから、稼ぐ機会も増やした。
「えっと、どこ行くの?」
「ふふ、秘密~!」
「そ、そっか」
の、ノリが分からないっ!
少なくとも好意的である事は間違いなさそうだけど……でも、自分からしたら直近で嫌われた瞬間を思い出したばかり。記憶から消したいほどに自分の中で黒歴史だと思っていた場面が目に焼き付いて、未だ離れない。
「あ、これ美味しそうじゃない?」
「ん?」
凪さんがそう指し示したのは、クレープ店。かなりの種類があるようでとても美味しそうだ。店には子供連れの家族と女子高校生数名が並んでいて、男子高校生の自分からしたら少しだけ並びにくい。
「確かに、美味しそうだね」
「りょうもいる?」
「あ、欲し……りょ、りょう?」
「ん?どうしたの」
凪さんがじっと見つめて来る。そうだ、思い出した。自分は小さい頃に凪さんから下の名前の涼介を縮めて『りょう』って呼ばれていたんだった。
「あ、いや……何でもない」
「そう? 何かあったら言ってね!」
「あぁ、ありがとう」
「どれにしたいとかある?私買ってくるよ!」
「そうだなぁ……」
普段こういう場所で買う事が無いから勝手が分からないけれど、美味しそうなものが多すぎて選べない。チョコとイチゴのクレープみたいな王道のものだったり、クリームブリュレクレープ?みたいなちょっと気になるものもある。
「凪さんは何にする?」
あぁ、最悪な切り返しをしてしまった。どこかで聞いた話だけれど、女性の質問を質問で返すのはダメ絶対みたいなのを聞いたことがあるような気がする。これでまた一段大人への階段下がりました。
恐る恐る凪さんの方を向くと、細目というかジト目というか。そんな顔をしながらこちらをじっと見つめている。やっぱり……
「ねぇ」
「は、はい」
「なんでそんな『凪さん』ってよそよそしい呼び方なの?」
「え?」
あ、そこ?
「『え?』じゃないよ~!私たちの中は数年でそこまで断裂しちゃったの~?」
「あ、えっと、ちが……」
「だったら昔みたく呼んでよー!女の子は呼び方一つで結構一喜一憂するんだよ?」
「そ、そうなんだ……」
半ばパニック状態に陥りながら頭をフル回転させる。自分は昔、凪さんの事をなんて呼んでいたっけ……? ここで間違えたら更に失態を重ねて自分はもう立ち直れないだろう。せっかく好意で遊びに誘ってくれたのに、それを無駄にするような真似は出来ない。
「え、えと」
「ん~?」
「みちか、ちゃん?」
不安ゆえに、疑問形になってしまった。
「そう! そう呼んでよ! あ、でも今はちゃん付けは要らないかも?」
「あ、うん。良かった」
あ、危なかった……危機一髪。えっと? みちかちゃんが当たってたから? 『みちかちゃん』から『ちゃん』を取ると……『みちか』になる。だから、これからはみちかって呼べばいいんだよね、よし。
本当に、一つ一つ確認していくくらいの意気じゃないと。また失敗したら、そう思うと既に脈を打って震えているであろう心臓が、余計に震えて止まらない。
「それじゃあ私はね~! このチョコがいっぱいあるやつが良いかな~」
「そう? それなら自分はイチゴのにしようかな」
「決まりだね! 私買ってくるよ!」
「自分も行くよ」
「大丈夫! こういうの、男の子は並び辛いでしょ?その代わり、女の子が並び辛い所あったら並んでくれる?」
「もちろん。ありがとね」
「ううん! 大丈夫!」
そう言って、凪さ……みちかはクレープ店に並びに行った。
「…………暇になっちゃった」
手持ち無沙汰だ。かといって、スマホゲームはする気になれない。どうしたもんだろうか……
ふと、あるものが目に入った。ゴミではない、痛くないから。
「うん。いいかも」
行ってきてしまおう。
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