第26話 進撃のモーゼ6

 戦が始まった。


 宇宙博物館の中、コマボックスを前に、光鳴は立体地図を眺めているだけだが、そこに映し出されている光点を観察しているだけでも、開戦の気配をヒシヒシと感じ取れる。


 青い光点は味方の軍。


 赤い光点は敵の軍。


 一見、数だけなら、敵の方が優勢だ。しかし、表示されているのはあくまでも最弱の歩兵「し」。他の属性の者達は決して表示されない。


「この周りのフチが金色になっているのが、『王』を表しているのであります」


 グレイくんに指差された箇所に、光鳴は目を向けた。なるほど、確かに、金色で縁取られた青い光点が、宇宙博物館の場所に重なっている。これがグレイくんを表しているのだろう。


 おそらく敵にも、こちらの「王」の位置は知られている。


 二階展示室への入り口は二箇所。そのうち最も敵が侵入しやすそうな入り口のほうに、アストライアを配置している。


 もちろんここへ来るまでに、一階の警備を突破する必要はある。だが、もしも敵にアストライア級の「香」属性の者がいれば、一階にいる一般人達だけでは太刀打ち出来ない。そして、読みが外れて、アストライアがいないほうの入り口から敵が来れば、一気にピンチになってしまう。


(やっぱり誰かに頼んで、もう一方の入り口も守ってもらうか……?)


 そう考えたものの、すぐに光鳴はかぶりを振った。自勢力の人々については、まだちゃんと把握しきれていない。信頼出来るかどうかわからない。「王」を守る任務だ、滅多な人間には任せられない。


「せめて敵の考えがハッキリわかれば――」


 と呟いたところで、光鳴は、立体地図を見たまま硬直した。


 様子がおかしいことに気が付いたか、グレイくんは、「どうしたのですか?」と近寄ってきた。


(いま、北側で、何かが動いたような)


 地図の上、北方。見切れている端のほうで、何か光が映った気がした。目を凝らしてみると、チラチラと何かが見え隠れしている。


「グレイくん、この地図、もっと北のほうに寄せられる?」

「やってみましょう」


 グレイくんが何回かコマボックスを触ったところで、地図の表示範囲は、北へと移った。


「おい、嘘だろ――!」


 それは当然予想されることであったというのに、光鳴は南方からの宝達志水のことばかり気にかけていた、自分の呑気な頭を、心底呪った。


 羽咋市の北には、志賀町と、中能登町がある。いま、中能登町は七尾市に支配されているから、厳密には七尾市勢力ということになるが――


 その志賀町と、七尾市、どちらもが、羽咋市との国境線沿いに兵を進めていた。


 七尾市側は様子見なのか、大軍を国境線に配置したまま動こうとしない。


 一方で志賀町のほうは、少しずつ、にじり寄るように、軍団を南下させつつある。七尾市勢力に対する牽制か、中能登町との国境にも兵士を置きながらの、羽咋市への侵攻。


「漁夫の利を狙う気か!」


 光鳴は歯噛みし、顎を指でつまんでゴシゴシとこすり始めた。それは昔からのクセだ。ボードゲームで考え事をする時、こうして顎に刺激を与えていると、いつも妙案が浮かんでくる。


 使える人員は限られている。南の宝達志水軍と戦いつつ、どうやって北からの侵略を防ぐべきか。


 やがて、光鳴は、ある策を思いついた。

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