第25話 進撃のモーゼ4
夜の車道を、一般人達をゾロゾロと引き連れて、クロガネは静かに進んでゆく。
宇宙博物館の中で見た立体地図の、赤い光点の進行具合から計算すると、もう間もなく会敵となる。
星は見えるものの、街灯が無く、先は真っ暗闇だ。人がいるのかどうかもわからない。
ライトを点けたくなる衝動を抑えて、足元にうっすらと見える白線だけを頼りに、ひたすら前へと向かう。後から突いてくる一般人達は、一番強い武器でもシャベル程度、みんな怯えた表情をしていることだろうが、暗くてその顔はわからない。ただ、緊張した空気だけは伝わってくる。
(だんだんルールがわかってきた)
コマボックスを使って映写される立体地図には、様々な種類があるが、敵味方の進軍・配置状況を表示している地図では、どちらも「王」と「し」の属性しか表示されない。つまり、倒すべき目標と、最弱の兵隊達のみ、何らかのレーダーに引っかかるということになる。
なかなか面白い仕組みだ。「飛」「角」「金」「銀」「馬」といった属性は、レーダーに引っかからず、立体地図にはその所在地は表示されない。だから隠密行動も可能だが、しかしそうやって敵地に潜入したところで、「王」を倒すことは出来ない。ただ、同じくレーダーに感知されない属性として、「香」がいる。アストライアの属性でもある、「香」が。「香」であれば「王」の防御を突き破って倒すことができる。
そうやって考えると、最も有効な「王」を倒す手段とは、
・「し」の大軍を送り込んで敵の目をくらませる。
・防御のために敵軍が守備を割いたところで、「香」を送り込み、「王」を倒す。
この二段構えの戦法となる。
(宝達志水の連中は、まさかそのために……?)
だからって、こんな捨て石作戦に、なんの意味があるのだろうか。
しばらく進んでいるうちに、前方から、声が聞こえてきた。地の底から這いずり出てくるような、重く、纏わりつくような、強力な呪を孕んだ声音だ。
――モーゼ様をお護りせよ
――モーゼ様は絶対だ
――奴らの臓物をモーゼ様に捧げよ
クロガネの後方で、誰かが「ヒッ」と引きつった声を上げた。気持ちはクロガネもわからないでもない。死ぬことはない、致命傷を受ければカード化される、とはいっても、殴られれば痛い、斬られれば痛い。もしかしたら死なない程度に生かされて、延々と苦しまされるのかもしれない。
ましてや、腹をかっさばかれて、臓物を引きずり出される、なんてことになれば――果たして、楽に死なせて――いや、カード化させてもらえるのか。
(まずい、士気が段違いだ)
敵はますます声高らかに歌いながら進んできており、一方で味方の一般人達はすっかり戦意を失いつつある。
いくら先ほどはアストライアに扇動されたとはいっても、結局は戦争をしたことのない人達。狂信者的な集団に真っ向から迫られては、やはり、身が竦んでしまうのだろう。
「チッ」
クロガネは舌打ちし、マシンガンを構えた。
かくなる上は、まず自分が出来るだけ多く、敵を打ち倒すしかない。相手に先手をとられる前に。そうやってみんなの勢いをつけて、一斉に突撃させる。作戦も何もない玉砕戦法だが、他に指揮を執れる人間がいない以上、気合いで戦うのみだ。
(これであんたの読みが外れていたら、マジで、一生ビールおごってもらうぞ!)
あえてアストライアを宇宙博物館に残した、光鳴に対して、心の中で毒づきながら――クロガネは闇の奥の敵軍に向かって、突撃を開始した。
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