第24話 進撃のモーゼ3
展示室に入ると、中央に設置されているコマボックスを、グレイくんが操作しているところだった。
空中に投射された立体映像は、羽咋市南部と宝達志水町北部の地図だ。その地図上、南北に走る二つの国道に沿って、連なった赤い光点が北上している。
「いま、敵の進軍状況を表示しております。宝達志水軍であります」
「国道159号線と、249号線――」
光鳴は、宇宙博物館の東と西にある二つの国道を見て、すぐに敵がどういう意図で進軍しているのかを察した。
「東西から挟撃するつもりか……!」
「私はすでに自衛隊の仲間達を西のほうへ送った。あっちは裏道も多い市街地だから、ゲリラ戦を仕掛ければなんとか持ちこたえられると思う。東側は開けた場所が多い。アストライアに迎撃を頼もうと思うけど、どうかな?」
クロガネの提案に、しかし、光鳴はすぐには是と答えられなかった。
直感が、告げている。
この侵攻は何かがおかしい。
「なんでいま……?」
深夜から夜明け前。夜襲を仕掛けるのは、古来より、この時間帯が最も適している。いまのような、眠りに入る前の、まだ緊張が完全に解けていない状態のところへ攻めかかれば、当然迎撃されてしまう。
宝達志水の軍が戦争のことを何もわかっていないのか、それとも。
「アストライアはここに残す」
光鳴は賭けに出た。
何か違和感がある、この状況で、切り札を軽々に戦場へと出すわけにはいかない。
「それは、確信があって、やることなんだろうな?」
「確信なんてないよ。でも、僕は、こういう駆け引きにおいては、自分を信じてる」
将棋に限らず、様々なボードゲームにおいて、光鳴は優秀な戦績を収めている。本物の戦争なんて知らないが、こと戦略面・戦術面においては、すでに訓練済みだ。その自負が、発言に、力を持たせた。
「クロガネさん。悪いけど、西の守りは、部下の人達にやらせてくれないかな。東は、ここにいる戦えそうな人達を、クロガネさんが率いて行ってほしいんだ」
「これであんたの勘が外れていたら、とんでもないことになる。その覚悟はあるんだろうな」
「もちろん。これで負けたら、なんでも言うこと聞くよ」
「は、言ったな。だったら一生ビールおごってもらうからな」
気持ちがいいほどに、クロガネは、光鳴の提案を受け入れてくれた。出会ったばかりの年下の少年を、自衛隊の人間が、これほどまでに信頼してくれている――そのことに、嬉しさを感じる反面、また光鳴は疑念を抱いた。何か裏があるような気がした。
マスコミに、自分の情報を流した人間がいる。おそらくこの羽咋市の勢力内に。
やはりクロガネが怪しいのではないか。
(よそう)
いまは余計なことを考えている余裕はない。
敵の出方を見ながら、策を練り、効果的に撃退する。そのために軍師としての自分がいる。その務めにひたすら専念するしかなかった。
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