第21話 大乱の始まり8
人々の戦意は湧いてきた。しかし問題は、具体的にこれからどうするか、だ。
宇宙博物館の中にある会議室に、一同は集まった。グレイくんやアストライア、光鳴、クロガネ、自衛隊の面々、そして宇宙博物館の関係者達が会議に参加している。
「簡単に考えるなら、防衛か、進攻か、二つにひとつ」
テーブルの上に広げられた能登半島の地図を指差しながら、光鳴は説明する。
「防衛は最も楽だけど、何も進展しない。それに対して、進攻は最も困難だけど、一番勝利へと近付く道だと思う」
「どちらか二択ってわけでもないだろ。大事なのは、どのタイミングで、どの戦略を選ぶかってことじゃないのか」
「そうだよ、クロガネさん。そのシフトのタイミングが重要なんだ」
守ってばかりではジリ貧になる。かといって、攻めるべきではない時に攻めれば、取り返しのつかない痛手を負う可能性もある。
おまけに、この会議の冒頭で、グレイくんが説明したルールのこともある。
それは「ごいた」をベースとした、全ての人物に割り振られた属性のこと。カード化された時に右下に書かれていた、「王」や「角」といった役割のことだ。
「さっきグレイくんが教えてくれたルール――“『王』を倒せる存在”のことを考えると、誰をどこに配置するか、も大事になってくる」
「ごいた」は、自分の前のプレイヤーが出した駒と、同じ駒を出すのが基本となる。そうやって前のプレイヤーの攻めを防御した上で、次の自分の駒を出して攻撃とする。ところが、「王」に限っては、受けられる駒に例外がある。それは、次のようなものだ。
・王は「飛」「角」「金」「銀」「馬」を受けられる。
・ただし王は「香」「し」を受けられない。
「王」はほとんど全ての駒を防御出来るチートな性能を持っているのだが、唯一「香」と「し」だけは受けられない。「し」は場に八枚存在する、レア度で言えば低いランクの駒であり、将棋では「歩」に該当する弱い駒だが――唯一、「王」の防御をすり抜けることが出来る。
いま起こっている能登ウォーズでは、まさにその「ごいた」のルールが適用されているというのだ。
「同じ属性の敵に対しては攻撃が通用しないし、また同じ属性の敵からの攻撃は効かない。それが『王』の場合は、同じ『王』だけでなく、『飛』『角』『金』『銀』『馬』の属性の敵に襲われたとしても、ノーダメージで終わる――だけど、『香』や『し』の攻撃は喰らう」
この戦争の終了条件は、他の全ての「王」に勝つこと。
そして、その「王」を倒せるのは、「香」「し」の属性の者だけなのだ。
「私達、羽咋市勢力の場合は、いまのところ『香』はアストライアだけみたいだな」
クロガネの言葉に、光鳴はうなずいた。
「『し』は大勢いるけど……当然、戦闘力は低いから、『王』を倒すのは厳しいと思う。まず他の属性の敵に倒されちゃうよ」
「つまり、攻めの要はアストライア。敵の勢力に攻めて『王』を倒せるのはこいつだけ。けれども、そうやってよそへ攻め込んでる時に、もしも他の勢力から『王』自ら乗り込んできたら、太刀打ち出来るのは『し』しかいないから、いまの状況では敗北は必至、ってことだな」
「アストライア以外にも『香』が見つかればいいんだけど……」
「ま、無いものを考えててもしょうがない。いまは、明日からどうするかを考えよう」
「とにかく僕らがやるべきことは、後顧の憂いを無くすこと」
トン、と光鳴は、羽咋市の南側の勢力を指で叩いた。
「僕らの背後には、この宝達志水町がある。先にここを落としておかないと。宝達志水のほうも、隣り合っているのはこの羽咋市しかないから、絶対に僕らを攻めるしか道はないし」
「よし、決まりだな。明日からは宝達志水町を攻めることで、作戦を練ろう」
方針がまとまったところで、グレイくんがパンパンと手を叩いた。
「皆さんお疲れでありますでしょう。今日のところは、シャワーでも浴びて、ゆっくり休んでくださいです」
確かに、体を動かしていたのと、精神的に緊張していたのとで、限界が近付きつつある。続きは明日の朝、疲れが癒えてから――ということで、ひとまず会議はお開きとなった。
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