第16話 大乱の始まり3
「その褒賞のことは――勝利した勢力の人間は、手に入れたものを永遠に所持出来る、ということは――みんな知ってるの?」
「いいえ、あなたにしか話しておりませんです」
「どうして僕だけ……」
「あなたが『角』だからであります」
「『角』?」
「王は、相手を見れば、『ごいた』に対応した属性がわかるのです。あなたは『角』。すなわち『し』ではありませんし、これはなかなかに貴重な存在であります」
能登の伝統遊戯「ごいた」では、将棋に似た駒を使用する。その中でも、最弱な存在が「し」である。将棋では「歩」に該当するだろうか。一応、あるルールによって、戦局を覆しうる切り札ともなるのだが、数は全部で八枚あってレア度は低い。基本的には弱い駒だ。
それに対して、「王」「飛」「角」「金」「銀」「馬」「香」といった駒は、勝負の場に存在する枚数が少なく、特に「王」「飛」「角」は同じ物が二枚しかないため、使いどころを誤らなければ、かなりの強さを誇る。
「ごいた」は、四人で勝負する。
プレイヤーが出した駒「攻め」に対して、次のプレイヤーが同じ駒を出して「受け」、そして新しい「攻め」の駒を出す。さながらUNOのようなルールだ。違うのは、「受け」て「攻め」ることから、一回のターンで2枚の駒を出すというところ。
最終的に全ての駒を場に出し切ったプレイヤーが勝利となる。それが基本ルールである。ちなみに、「攻め」と同じ駒を持っていても、「受け」なくてもいい。パスは自由に出来る。後で使おうと思って駒を温存することも可能だ。
その中で、二枚しかない「王」「飛」「角」は、貴重な駒となる。たとえば、すでに「角」が一枚出されていれば、場に「角」はもう残り一枚しか存在しない。必然的に、その最後の「角」を出せば、他のプレイヤーは出せる持ち駒がないからパスとなり、また自分の番となる。そうなれば持ち駒を有利に消費することが可能となる。
グレイくんは、そういった「ごいた」の機微をわかっているから、光鳴の属性が「角」であると見て、貴重な戦力であると判断したのだろう。
「『角』なのは嬉しいけど……勝手に人のことを『ごいた』の駒扱いしているのは、誰なの? やっぱり神様?」
「だと思われますが、我輩には、推測することしか出来ないのであります。なぜ『ごいた』の要素が取り入れられているのか、まったくわからないのです」
「どうして『角』とか『馬』とか割り当てているんだろう。まさか、いざ戦闘になったら、『ごいた』のルールが適用されるのかな……」
「それよりも、カードにされた皆様を、早く解放してあげましょうです」
「うん。だけど、破ったら、僕に服従しちゃうんじゃ……」
「方法はあります。水に一〇秒浸せば、自然とカード化は解け、元に戻るのです。それであれば誰の支配下に置かれるということもありませんのです」
グレイくんに教えられた通り、さっそく、光鳴はトイレから水の入ったバケツを持ってきて、クロガネのカードを水面に浮かべてみた。
一〇秒経ったら、閃光が走り、バケツからクロガネが飛び出してきた。ドサッと床に落ち、「いてて」と声を上げる。紛れもなく、生きている本人だ。
「ここ、は……?」
クロガネは、自分の身に何が起きたのか、まだ理解出来ていないようだ。本人にとってみれば、さっきまで屋外で戦っていたのに、気が付けば宇宙博物館の展示室にいる、という状況なのだろう。戸惑うのも無理はない。
「へ、あ⁉ お、お前は、なんだ!」
グレイくんを見た瞬間、クロガネは小さな叫びを上げた。意識を取り戻した直後に、緑色の宇宙人が目の前に立っている、この不思議なシチュエーションにややパニックを起こしているようだ。
「大丈夫、クロガネさん。この人は味方だから」
「み、味方?」
「そう。そして、僕らは、この――グレイくんを、守らないといけない」
「いきなり言われても……ちょっと……頭が追いつかない……」
両手で頭を抱えて、苦悶の表情を見せるクロガネ。
その時、一階のほうから、人々が何か騒いでいる声が聞こえてきた。どこかでテレビのニュースが流れている。
「何かあったのでしょうか……?」
アストライアはつぶやき、先に展示室を出て行った。光鳴達も自然と、その後を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます