第14話 大乱の始まり1

 宇宙博物館の中には、見える範囲だけでも百名を超す避難民がひしめき合っている。その中の誰も、アストライアの格好を目の当たりにしても、何も反応しない。明らかに普通の市民ではないというのに。


 光鳴が不思議に思っていると、館内の奥から、もっと普通ではない者が歩み寄ってきた。


「やあやあ、ようこそ我輩の宇宙博物館へ」


 それは、緑色の体色を持つ、見るからに典型的な宇宙人だった。着ぐるみかと思えば、そうではない。動きは自然だし、ほほ笑みの表情も見せている。


「我輩はここの名誉館長である『グレイ』であります。みな、親しみを込めて『グレイくん』と呼んでおりますので、同様に呼んで構いませんぞ」

「とんでもございません、我が王」


 突然、アストライアはひざまずいた。(あれ、自分がマスターじゃなかったっけ⁉)と光鳴が面食らっていると、その内心を察したのか、アストライアは苦笑しながら顔を向けてきて、説明を始めた。


「カードの人物が服従するのは、カードを破って復活させた者だけではありません。その勢力の最高位である――『王』にもまた、従うようになっているのです」

「王……? このグレイ、いや、グレイくんが……?」

「羽咋市勢力において最も位の高い方であり、また、我々が死守すべき存在でもあります」


 何かが引っかかり始めた。


 騎馬武者のカードは「馬」。先ほど手に入れた長綱連のカードも「馬」。アストライアがカード化されていた時は「香」。クロガネのカードを見ると、「飛」と書かれている。そしてグレイくんは「王」と呼ばれている。


「まさか、『ごいた』――!?」

「正解なのです。よくぞ気が付きました」


 パチパチパチとグレイくんは拍手した。


「わかりやすく説明しましょう。これは、神が起こしたゲームなのであります。能登半島全体を巻き込んだ、言うなれば戦略ゲーム。その基本ルールとなるのが、この地に伝わる伝統遊戯『ごいた』であります」

「神が、起こした……⁉ どうして、こんなわけのわからないことを!」

「それは我輩にもわからないのです。気が付けばこの世に生み出されておりました。もともと我輩は象徴的な存在――この宇宙博物館におけるマスコット的存在でありましたのが、神の手で現実のものとして作られたのであります」

「理由は、本当に、何も……?」

「はい、何も」

「これがゲームということは、プレイヤーは、一体誰になるの?」

「それは」


 と、グレイくんは、普通の人間よりも細長い人差し指を光鳴に突きつけた。


「あなた達人間になるのであります」

「僕らが――プレイヤー⁉」

「申し訳ありません。一度話を中断して、カードの回収を先に行いましょう。敵に拾われるわけにはいきません」


 アストライアが割り込んできて、光鳴達の問答を止めてきた。確かに、カードはあの平野に放置しっぱなしになっている。状況把握よりも先に、カード回収を優先すべきだ。


「装置はどこに?」

「二階にありますぞ。こちらへ」


 グレイくんに手招きされ、光鳴とアストライアは後をついていき、階段を上った。

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