第13話 羽咋市内撤退戦9

 ものの数分で敵は壊滅状態となった。


 戦意を無くした騎馬武者や足軽達は、ほうほうの体で逃げていく。アストライアは敵に反撃の意が無いことを確認すると、きびすを返して、光鳴のそばへと寄ってきた。


「マスター。お怪我はありませんか」

「あ、うん」

「安全は確保されました。まずは拠点まで退避しましょう」

「だけど、カードが」


 一帯には、敵のものも味方のものも混在して、カードが散らばっている。とりあえずクロガネと、長綱連のカードは拾ったが、全員分はまだ回収出来ていない。なるべく多くの仲間が必要となる、この状況で、たとえ時間がかかったとしても、拾える限りのカードは全て拾っておきたい。


「大丈夫です。拠点に行けば、エリア内にあるカードは全て転送可能ですから」

「拠点……? 転送……?」

「ああ、まだ何もわかっていないんですね」

「気が付いたら、巻き込まれてて。君は何か知ってるの?」

「私は――『創造された存在』ですから」


 アストライアの言っている内容は、結局、何も理解出来ない。ただ、常識では捉えきれない事態が、いまこの能登に起こっているということだけはわかってきた。


「詳しい説明は、宇宙博物館へ移動してからにしましょう。あそこが拠点ですから」

「ちょうど僕らが向かおうとしていたところだ」


 クロガネが宇宙博物館を目指していたのは一応の理由はあったが、アストライアが「拠点」と呼ぶのには、何かもっと特別な事情がありそうな気がする。


「さ、急ぎましょう。敵にカードを回収されたら、手遅れになります」


 アストライアに促され、光鳴は迷いつつも、移動を始めた。


 羽咋川にかかる橋を渡りきり、しばらく歩いていると、宇宙博物館が見えてきた。


 NASAから取り寄せたという本物のロケットが、建物の前にそびえ立っている。小学生の頃、一度遊びに来たことがあり、光鳴は懐かしさを感じた。


 ドアは開きっぱなしだ。しかし、内側に机や椅子が積み上げられて、バリケードが築き上げられている。これでは中には入れない。


「どうしよう」

「声をかけてみましょう。私達二人だけですから、それほど警戒はされていないはずです」


 バリケードの近くに寄り、柔らかな口調で、アストライアは中に向かって呼びかけた。


「ごめんなさい。私達、騎馬武者の軍団に襲われて、ここまで逃げてきたんです。他に行く当ても無くて……入れてくれませんか?」


 内側から物音がした。相談でもしているのか、話し声も聞こえてくる。まさか拒絶されるのだろうか――光鳴は、ここで放り出されたらどうしようと、内心ヒヤヒヤしていた。


 やがてガタガタと大きな音が聞こえてきた。バリケードを崩している音だ。そして中に入れるスペースが出来た。


「早く入れ」


 いかにも堅気ではなさそうな強面の男が顔を出して、手招きしてきた。

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