第11話 羽咋市内撤退戦7

 助かった、と思っていた。


 神様は自分を見放していなかった、と喜んでいた。


 だけどUFOが撃墜されるのを見た瞬間、世の中そんなにうまいことばかりじゃないと落胆した。


 それはそうだ。もしも神様が見守ってくれているのなら、彼女になる女の子の一人や二人、引き合わせてくれるはずだ。もっと幸せな時間を与えてくれるはずだ。


 でも、結局何ひとつ青春らしい青春を送れないまま、受験戦争へと突入してしまった。挙句の果てには本物の戦争に巻きこまれて、こうして儚く散ろうとしている。


 カード化されるだけ。死ぬことはない。でも次に復活する時には敵の手駒となっているかもしれない。自分の意思で生きられないのなら、死んだのと同じようなものだ。


「では、トドメだ」


 綱連が槍を握る手に力をこめた。


 再び光鳴は祈る。


 助けて、神様。


 ここ一番。この瞬間。いまだけでもいい。今後の人生について贅沢は言わない。だから、あと一回だけ、僕に奇跡をください――!


「ん?」


 急に、綱連は攻撃を中断して、宙へと目をやった。


 何かがヒラリと舞い落ちてくる。


 それは一枚のカード。


 撃墜されたUFOの中から、爆風に煽られて飛んできたもの。


 祈りが天に通じたのか――カードは、光鳴の胸にペタリと貼りついた。


(もしかして、これ、あのUFOの乗組員の)


 胸からカードを剥がし、見てみる。


「え」


 光鳴は書かれている内容を見て、絶句した。



 アストライア。UR。コスト12。



 SRはおろか、そのひとつ上のランクのSSRでもない。いきなりのUR。最強の証。スマートな甲冑に身を包んだ美しい少女が、剣と盾を構えて凛々しく立っている絵。カードの右下には、「香」と書かれている。



 動悸が激しくなる。カード化された人間を元に戻せば、その人間は、元に戻した者の命令を聞くようになるという。これは、自分に訪れた、最大のチャンスだ。


 元に戻すやり方は?


 そうだ、たしかやり方は――


「させるかぁぁぁ!」


 綱連は怒号し、馬上から勢いよく槍で突き刺そうとしてくる。


 しかしそれよりも早く、光鳴はカードを目の前に掲げると、両手で一気にバリッと破った。



 たちまち光鳴と綱連の間に閃光が迸る。


 目も眩むような輝き。耳をつんざく炸裂音。そして。

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