第7話 羽咋市内撤退戦3
目的地となる宇宙博物館は、この気多大社から南東にある。
逃走ルートは二つ。
気多大社を出てすぐのところを走っている国道249号線を進み、そのまま羽咋駅のほうまで南下して東進する直角ルートか、早々と249号線から外れて斜めに突っ切る最短ルートか。
「最短ルートを行く」
迷わず、クロガネは採択した。
隣の女性隊員が首をかしげる。
「よろしいのですか? 行き方は複雑ですが」
「国道よりは伏兵を配置しやすい。それに、時間をかければかけるほどこちらが不利になる。素人さんたちを多数抱えているのを忘れんな」
それから、チラリと光鳴のほうを見て、呟いた。
「ひとり、違うやつが紛れてるけどな」
鳥居を抜けてから、国道までの道のり。
まっすぐ国道も越えて進んでいくと、その終端は海となっている。
その海岸の方向から、早くも三騎ほど、騎馬武者が突撃してきた。
「撃て!」
クロガネがサッと手を上げると、自衛隊員たちは容赦なく斉射する。
あっという間に騎馬武者たちは銃弾を喰らい、ボフンッとカード化してしまった。
道に落ちている三枚のカードを拾い、選り分けて、一枚は自分、一枚は隣の女性隊員に渡し、残る一枚を追いついてきた光鳴に渡した。
「持ってな。能力値的には弱いが、一体あれば、それなりに役に立つはずだ」
「あの、これは? 使うって、どういうことですか?」
「カード化された状態から、元に戻すことができるんだ。敵味方関係なく。ただし敵の場合、強制的にこちらに従属させることが可能だ」
「つまり、寝返らせられるってこと?」
「制約は色々あるけどな」
「使い方は?」
「簡単だよ。カードをビリッと破くだけ。それでカードに封じられているやつが具現化し、あんたの命令に従う戦士となってくれるのさ」
「ふう……ん。よく知ってるね」
「一応は輪島で経験済みだからさ」
まるでゲームみたいだ、と光鳴は不思議な思いで、渡されたカードを見てみた。ノーマル、コスト4と書かれている。それが何を意味するのか。
光鳴がやっているスマホのゲームでは、「ノーマル(N)」はカードの出現頻度(レアリティ)が最も高いもので、それだけに逆に価値は低い。
その次が「レア(R)」、「スーパーレア(SR)」、「スーパースペシャルレア(SSR)」、そして「ウルトラレア(UR)」と続いていく。
ゲームによっては、☆表記で表すこともある。星一個がノーマルに相当するなら、星五個はウルトラレア級、いわゆる「環境」と呼ばれるような無類の強さを誇る。
「ノーマル」は、まず確実にゴミカードだ。何の戦力にもならない。
「ここに書いてある能力値は、そのままその人物の強さ、ってこと?」
「たぶん、そうだと思う。だが、ひとつわからない表記がある。カードの右下」
光鳴も気が付いていた。
騎馬武者のカードの右下、丸い枠の中に書かれている「馬」の文字。
これは騎馬武者だから書かれているものなのか、それとも別の意味があるのか。
「他のカードには別の文字も書かれていたけど――バタバタしてて、よく確認するのを忘れてた」
レアリティと、コストと、それ以外に考えられるものがあるとすれば、「属性」だ。が、ここで「馬」はどういった力を持っているのか。
何か引っかかるものを感じつつも、いまは宇宙博物館への撤退に集中すべきだと思い直し、カードのことはしばらく考えないようにした。
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