第6話 羽咋市内撤退戦2
「クロガネさん。分屯基地からです」
隊員の一人が、クロガネに通信機を渡してきた。険しい表情のまま、クロガネは通信機から流れてくる声に耳を傾けていたが、やがてひと言、「了解」と返事をした。
通信機を仲間に返してから、クロガネは声を張り上げる。
「基地からの伝達だ! 本事変は現時刻をもって『能登ウォーズ』と呼ぶこととなった! 正式名称ではなく、あくまでも我ら分屯基地における仮称だが。とにかく、これは訓練でも遊びでもない。本物の戦争だ。腹くくってかかりな!」
隊員たちは一斉に「はい!」と威勢よく応えた。
残る一般人たちは、自分たちの命運やいかにといった不安げな表情を浮かべ、互いに顔を見合わせている。
もちろん光鳴だって例外ではない。怖くて怖くて仕方がない。
しかし同時に、昂ぶりも感じている。
退屈だった日常に突如割りこんできた、非現実。恐怖と同時に、いま、自分が生きているという実感も湧いてきている。
「よし、撤退するぞ」
境内の真ん中、どこかから持ってきた木の机が置いてある。その上にクロガネは地図を広げた。羽咋市内の地図だ。
「当面の拠点はここにしようと思う」
誰に話しているのかと思えば、自分に対してなのだと気がつき、慌てて光鳴はクロガネのそばへと駆け寄った。
「宇宙博物館……?」
指差された地図上の施設名を読み上げて、光鳴は首を傾げた。羽咋市内にある宇宙博物館は、確かに施設としては非常に有名な場所ではあるが、拠点とするにはあまりにも心もとない。
「市役所のほうが向いているんじゃ」
「もちろん検討はした。けど、町中にあるから、乱戦になればかえって防御は難しい。それに対して、宇宙博物館は周囲の見晴らしが良くて、北側に羽咋川、南側に子浦川がある。爆薬を使って橋を落とせば、敵の侵攻を食い止めることも可能だ」
「ば、爆薬……!」
「言ったろ。これは戦争だ。使える物は何でも使うさ」
異論は無い。さすがに細かいこととなると、戦争については、光鳴は素人だ。具体的なことは全て自衛隊の人々に任せるしかない。
そしてクロガネは撤退ルートを簡単に指でなぞって説明すると、さっさと地図を畳んで、パンパンと手を叩いた。
「さあ、みんな、気をしっかり持て! ここが辛抱のしどころだぞ!」
快活に号令し、鳥居のほうへと歩いていった。
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