第4話 気多大社防衛戦4

 光鳴は、素人だ。戦争に関してはド素人もいいところだ。


 しかし才能はあった。


 小学生のころ、七尾市に住んでいた光鳴は、輝かしい実績のある将棋部に入って修練を積んでいた。


 地域の大会にも出た。


 大会では中学生や高校生もいたが、光鳴は圧倒的な戦績で勝ち進んでいった。


 将棋で求められる能力は、記憶力、洞察力、戦略眼、度胸。たったの数秒で、相手の手を読み、最適なタイミングで自分が有利になる手を打っていく。頭脳の瞬発力もまた必要となる将棋において、光鳴は才能を発揮し、大会では惜しくも準優勝だったが、「まさか小学校四年生がここまで勝ち上がるとは」と周りの人々を驚かせたものだった。


 その後、小学校五年生になる前に引っ越しし、石川県の最西端へと移ってしまった。


 将棋の世界とは縁遠くなったが、その代わり、囲碁やチェスにも取り組み始めた。特定の部活動に入って修練したわけではないが、棋譜や定石を憶え、たまに大人に相手してもらい、時にはプロを目指す人間と勝負したこともあった。


 光鳴は、ほぼ負けなしだった。


 だけど――いざ大学受験という時期になって、はたと気が付いた。


 これまでの自分の人生を振り返ると、暇さえあればボードゲームか読書だけで、ちっとも青春らしい青春を過ごしていなかった。その結果、カノジョがずっといないということに思い至った瞬間――


 心の安定を求めるため、旅に出たのである。




 で、繰り返しになるが。


 なぜその結果、鎧武者に襲われないといけないのか、光鳴にはいまだ納得がいっていない。というか、早く誰でもいいから、筋道立てて説明してほしいと思っている。


 あの迷彩パンツの美人のお姉さんは何か知ってるようだが、なかなか教えてくれない。


「よし、撤収だ! この神社は捨てる! 次の拠点へ移動するぞ!」


 森の中に隠れていた仲間たちへ、迷彩パンツのお姉さんは声をかける。「了解!」とあちこちから声だけ聞こえてくる。


 自衛隊、ということだけは教えてくれた。


 この事態を想定して、先回りして気多大社にやって来た、とも話してくれた。


 だけど肝心のこと――なぜこんなわけのわからない戦争に自分たちが巻きこまれてしまっているのか、その理由については固く口を閉ざしている。


「ほら、軍師。シャキッとしろ。まだ働いてもらうぞ」


 光鳴は苦笑した。


 少なくとも、しゃしゃり出て「二段構えの伏兵」の戦術を提案してきた自分のことを、結果として敵の撃退に成功したことで、ある程度は信頼してくれているようだ。

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