第2話
あの子が、
私と話していても、デートしていても、それ以上の関係になっても上の空だった。
「ねえ、もっと私に興味持ってよ」
「ああ………」
不満を口にしてみても、まるで抜け殻になったように返事が薄い。
二人並んで歩いているのに、まるで一人っきりの寂しい時間だ。あれだけ好いてくれていたのに、もう私への興味はすっかりなくなってしまったみたいで悲しくて堪らない。
失恋するより
「ねえ私のこと好き?」
「うん………」
「聞いてる?」
「ああ………」
何を言っても届かない。刺さらない。
私はどうすればいいんだろう。
春樹のことが大好き。
なら、もう一度春樹を振り向かせるにはどうすればいいんだろう?
言葉でも
「私のこと嫌いになったの?」
「………いや」
中身のない空っぽの返事がいつまでも返ってくる。
死んで記憶に刻み込むなんて
………そうだ。今は無い。
巡る思考に一つの解が見いだされる。私とあの子との決定的な違い、それは春樹の記憶に刻み込むインパクトと、圧倒的な時間だということに私は気がつく。
私は彼女みたいに命を投げ打ってまで記憶に残るような
なにより死んだら意味が無いと思っている。
でも時間ならいくらでも、まだまだ余すこと無く残されている。何ヶ月でも何年でも何十年でも、ゆっくりじっくり時間をかけて
それが彼女に対して私が取れる絶対優位だから。
それに気付いてから行動に移るまでは早かった。
私は春樹の背後に回ると手に力を込め、彼の背中をグッと押していた。
まさか倒されると思っていない春樹はバランスを崩してつんのめり、前屈みに転倒した。落ち着きを取り戻す前にすかさず腕を後ろへ引っ張り、犯人を取り押さえる警察官のような格好で動きを封じる。
「何をっ‼」
「気付いたの。今すぐ私に振り向かなくてもいい。これから一生掛けて君の意識を私に向け直させればそれでいいってことに」
「何を言って────」
人は己が理解出来ない事象を纏めて魔法なんて呼んだりする。
それが私に使えないなんて言ったことはない。
「『集うは
春樹から加えられていた力が抜け、抵抗がなくなる。彼の意識を奪った私は、
家に着いて部屋に入るや、私は一番にガムテープの準備とクローゼットの整理を始める。
「綺麗にしておかないと入れないもんね」
独り言を発しながらウキウキで
これから春樹の部屋となるのだ。気合いを入れないといけない。
でも考えてみれば私の私服を収納していた場所に住めるなんて、春樹はなんて幸福者なんだろう。至福の一時どころか、至福の永遠だと思う。
こんなにも彼のことを考えて行動する私って、やっぱり彼のことが大好きなんだなぁ、なんて改めてそんな事に気がついた。
ともかく後1、2時間もすれば彼も目覚める筈だ。
「一生掛けて私のモノにするからね」
その瞬間を待ち望みながら、スヤスヤ眠る彼の頬を優しく
私の存在が彼の体に刻み込まれるまで、いつまでもいつまでも。
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