死より想いの真の愛

明日葉ふたば

第1話

 私こと赤松あかまつあかねは、キラキラ光る宝石になりたかった。

 

 目眩めくるめく世界で輝いて居たかった。


 ………衆目の中で一際輝く、君の側に居たかった。


 だから私はずっと君の側に居た。幼馴染みである鈴寄すずよせ春樹はるきは、私の命の一部だったと言って良い。


 君のためならこの体を差し出せる。君のためなら犯罪だって出来る。君のためなら命さえも容易たやすく捨てられる。


 君のためなら何だって出来る。


 でも私が君の目に留まることは多分もう一生無いんだろう。


 以前からうっすら予感はあった。登下校を毎日繰り返す二人だけの時間に、あるとき一人の女が入り込んできたあの日から、壊れていく予感はうっすらあった。


 でもそれも慣れていった。その日常が当たり前のものになっていた。


 なのに。………それなのに。


 残酷なる真実は突然やってくる。


 学校からの帰り道。いつの頃からか繰り返していた3人での登下校が崩れ去った。今日はあの女がいなかった。


「俺、成美と…………鳴瀬なるせ成美なるみと付き合うことになった」


「………………え?」


「だから茜と今まで通りの時間を過ごすのは難しいかもしんねえ。悪い」


 硝子が砕けて、その破片が脳みそにブッ刺さったような衝撃を覚えた。血が噴出して頭がクラクラして足取りがおぼつかなくなり膝から崩れ落ちる。


「なんで………」


 絞り出した言葉は伝わること無く空気中をから回ってひらひらどこかへ待っていく。


 私なら君に真なる愛を与えられるのに。私を選んでくれれば君を一生支えていくのに。


 なんで私を選んでくれないの?なんで?ねえなんで?


「………あの子のどこにかれたの?」


「甘やかしてくれんだよ。それに、これはどう?あれもどう?って一生懸命動く姿が可愛いくてさ」


 こめかみをポリポリ掻きながら恥ずかしそうに言う。


 なんだそれは。


 私の方がずっと前から君に尽くしてきたし、君を甘やかしてきたはずなのに………。


 ………いや、違う。だからこそ、か。


 気がついてしまった。


 私の印象が薄れたんだ。


 君は私に慣れすぎたんだ。


 プロポーズのタイミングを逃すと次第に飽きて、結婚は実らず朽ちていくという。今、その立場に立たされているのか。


 許せない。


 ぽっと出の女に取られるなんて許せない‼


 それならもう私のことを忘れられないようにしてあげる。


 ずっと刻み続けてあげる。


 毎日私を思い出して、さいなまれるようにしてあげる。


「そっか。じゃあ私は春樹の記憶で生きる事にするよ」


「何を言って────」


 ここがことわりを揺るがせる世界で良かったと、本当にそう思う。


 人は己が理解出来ない事象を纏めて魔法なんて呼んだりする。


 だから君に理解して貰おうなんて思わない。私はただどんな形であれ、君の元に居られればそれでいい。


 私は小さな願いを叶えるために魔法の言葉を紡ぐ。


『春めくさやかな泥濘ぬかるみの底よ、花屑はなくず敷きて天蓋てんがいうたえ』


 自己破壊魔法自壊の庭園


 華々しく散りゆく刹那を、灯火の最後を謳歌おうかする。


「さようなら。次は君の記憶で」


「は………?」


 瞬間、コンセントを無理矢理抜いたように、私の意識はブツリと途切れた。合わせて私の肉体は内部から引きちぎられ、血と肉塊が飛散する。


 君にまとわりつく感触も無いけれど、これでもう永遠に、ずっと一緒だね。

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