第22話 葛藤と選択
「ふざけるな! また国王はお前に押し付けたのか!!」
「落ち着けって、メッド」
城の敷地内に存在する魔法騎士の駐屯地。本来ならば中隊の一つがその一室を借りることは難しいが、十七中隊は度重なる実績から中室の一つを与えられていた。
煉瓦を重ねた壁をメッドさんが感情のままに叩くのをたしなめたのは、上官であり友人でもあるリュミエルさんその人だ。だが、それで白銀の青年の激昂が収まるわけもない。
「前回の
「王としてはそれが最善の判断だろう。適任を避けて任せた結果、無辜の民に被害が及ぶのが最大の懸念だ」
「だからと言って……!」
奥歯を嚙みしめるメッドさんは、手のひらに痕が付きそうなほどに強く手を握りしめる。その光景を見ながら私はつばを飲み込んでいた。
「事実、今は俺の結界が効いているが長びくほど民の不安は募るだけだ。二年前の被害は幸いにも大きくなかったけれど、四大魔族に対する恐怖は人々の記録に刻まれている」
「アンタに言われなくても分かってるわよ」
リュミエルさんの言葉に、ディノクスさんが割りいる。はじめてあった時よりも一層棘のある声は、口にする言葉と全くかみ合っていなかった。
「でもね、王の判断が本当にいいかはアタシも疑ってるわ。アンタは間違いなく優秀だし、やると決めた以上はやるでしょう。でもそこに、リスクがないと言えるの?」
「……それは」
そういわれてはじめて、リュミエルさんの眉が八の字になる。翠の瞳がわずかにこちらを向いた気がした。
「何をリスクと捉えるか、だな。……竜たちにしても
すでに日は傾きかけており、魔法の燭台にともされた熱のない光が揺れる。私の隣にいた黒い影が、大きく一歩を踏み出した。
「……国の上の方針は理解が出来た。だがリュミエル。それは本当に、お前が思う最善なのか?」
「ヒースさん……」
「前にお前が俺へと口にした可能性の話。あれはただの思い付きか。だというのなら、俺がここにいる理由の一つは無駄だったということだ」
「ヒースさん!」
きっとそう言い放った彼の顔は、他の人々には見えなかったはずだ。それでも私には、今にも泣きだしそうなその顔が見えていたから。部屋を早足で出て行った彼の後を、その扉が閉まりきる前に駆けだして追いかけた。
◇ ◆ ◇
「ヒースさん! 待ってください……!」
疲労を覚えて痛みすら覚えている足だけれど、今は止めたくなかった。少しでも早く、目の前の彼に追いつきたかった。踏みしめる瞬間に力を入れて速度をあげれば、振り返った彼にくしくも飛び込む形になった。
「きゃっ!」
「っ、すまない……。怪我はないか、マナミ」
「だ、大丈夫です! それよりヒースさん。ヒースさんこそ……。……大丈夫じゃないです、よね」
質問の形だと口を閉ざしてしまいそうだったから、あえての断定口調で問えばルビーの視線がぶれる。ミツドリと呼ばれる小さな鳥。その羽ばたき音すら聞こえてきそうな沈黙が広がってから、耐え切れないようにその唇が開かれた。
「……理解はしている。リュミエルの立場からすれば、人を害する恐れのある魔獣を放置はできない。それがかつて国を滅ぼしかけた四大魔獣ならばなおさらだ」
だが、と言葉を区切ったヒースさんは唇を噛みしめる。ぷつりと切れた皮膚の端から鮮血がわずかににじんだ。
「それでも! ……それでも、どうにかして止められないかと。手段はないかと思ってしまうんだ。
「ヒースさん……」
「──アンタの、なんだって?」
冷たい空気をした廊下が一層冷え込んだ気がした。靴音を鳴らして近づいてくる男性の姿を認めたヒースさんが、警戒するように剣の柄に手を置く。
「ディノクスさん……」
「全く。ヒースもマナミも話が終わる前に部屋を出て行かないでちょうだい。……ま、逆に都合が良かったけど」
「都合だと?」
構えられているのを意に介さず、腕を組んだディノクスさんはつま先で床を叩く。
「協力しなさいマナミ。ついでにヒースも」
「協力って……一体何をですか?」
「ぶっちゃけるとね、アタシは国王のあの方針に納得してないの。だから調査と対処とは別に、手を打たせてもらおうと思って」
嘲笑を浮かべるディノクスさんの姿勢に、はじめてヒースさんが剣の柄から手を離す。無言で顎を引く彼の動作に、ディノクスさんが言葉をつづけた。
「リュミエルの改良した
協力なさい、二人とも」
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