クラス替え
春休みが終わり、今日は初の登校日。そしてクラス替えの日でもあった。
中学に入り初めてのクラス替え。
少し早めに登校すると、校舎の中庭にはすでに生徒が集まり、貼り出された新しいクラス表を見ていた。大きな紙に印刷され、そこにはクラスの番号とその下に担任の名前があり、生徒の名前が二段で列挙されていた。この中から自分の名前を探し出すというものだ。
一番端にあるクラス表から、さっそく自分の名前を探してみる。
「えーっと……あ、あった」
あっさりと見付かった。
「なんだ、また同じクラスか…」
おまけに担任も一緒だった。知っている名前は10人くらい。
「お、一緒のクラスじゃね」
横から声を掛けてきたのは髪の短い女子。髪が短いので、よく男子だと間違われるらしい。そういう僕も間違えて「失礼ねー」となじられたことがある。この髪型はベリーショートというのだとあとで教えてもらった。
名前は、
「お、また一緒か」
次に声を掛けてきたのは、メガネを掛けた、いかにも頭のよさそうな男子。実際に成績も優秀だった。彼の名前は
ふたりとあいさつ程度に言葉を交わし、僕は自分のクラスの名前をもう一度見てみたが、やはり可愛川の苗字は見当たらなかった。その苗字がないということは、当然よしのもけいも別のクラスということだ。
ひょっとしてどちらかと同じクラスになるかもしれないと少し期待していたので、いや、そうなるはずだと根拠のない確信があったので、予想がはずれてがっかりした。
いや、ちょっと待てよ。ひょっとしてふたりは転校してもうこの中学校にいないとしたら?
ふと、ふたりの名前が僕と同じクラスに見当たらない、そんな別の理由が思い浮かんだ。その可能性もあった。新学期になったら同級生がいなくなっている、そんなことはよくある話だ。そういう自分もそのいなくなった側の人間のひとりだったことがある。それだから、転校する前のなにかの記念に、あの日ふたりで僕にプレゼントをくれたのではないか。僕は自分に都合のいい解釈をしていた。
その転校の可能性を思いついてからは、僕はあわてて、少し離れて貼られた隣のクラスの名前を探してみた。
『可愛川…可愛川………』
漢字みっつの苗字はすぐに見付かると思ったが、なかなか見当たらない。見落としたのかと思ってもう一度見てみるがやはり見当たらない。
『わたしたちかわいいから…』
そんなけいの言葉が思い出された。
次のクラス、そしてまた次のクラス…。ない。やっぱりそうだ。やっぱり転校したのに違いない…。
「あっ…」
名前を見付けたのとふたりと目が合ったのとはほぼ同時だった。ふたりは僕のクラスから一番遠いクラス表のすぐ下に立っていた。
「あ、
けいが話しかけてきた。
「えーと、一番向こう」
「ぜんぜん違うね。うちらは隣同士のクラスなんよ。ね、よっちゃん」
「うん」
「そ、そうなんだ。よかったね」
「教室遠いけど遊びに来てね」
けいはそう言って笑った。よしのはなにか言いたそうにしていたが、結局うつむくようにして黙っていた。
「授業ってすぐ始まるん?」
「まだ時間あるんじゃない?」
「そっかー、じゃあもうちょっとここにいようかな…」
そう言ったのもつかの間、けいはこちらに歩いてくる誰かをじっと見ているようにしていたかと思うと、
「でもやっぱりここにいてもやることないから、よっちゃん、行こっか?」
と、言うなりすでに歩き出そうとしていた。
「うん」
よしのは小さく頷くと僕に向かって軽くお辞儀をし、ふたりはあっさりとその場を離れていった。新しいクラスの教室へと向かったんだろう。
「あれ? 皆実くん、まだこんなとこにいたん?」
その声に振り返ると、ほかの女子と一緒の本川さんが近くにいてどきっとした。ふたりと話をしていたのがバレただろうか?
「誰かと一緒にいた?」
「え? ううん」
「そう? めいちゃん、皆実くんは同じバスケ部なんよ。皆実くん、こっちは同じクラスになった
「あ、皆実です」
僕は名前を名乗るだけの間抜けなあいさつをしてしまった。
「皆実くんは名前なんて言うんだっけ?」
「皆実たけや」
「たけやっていうんだっけ。部活でも名前で呼ばれてる?」
「部活だと皆実かな」
「そうだよね。たけやって初めて聞いた気がする」
「皆実くん。わたし横川です。よろしくお願いします」
彼女は伏し目がちにぺこりとお辞儀をした。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「そういえば、バスケ部の誰かに会った?」
「ううん、まだ誰にも会ってない」
「そっか…。先生から今日の放課後集まれって言われてるんよね。ま、いっか。じゃ皆実くん、またあとで教室でね。横川さん行こっ?」
「うん」
「あ、バスケ部の誰かいたら、わたしの教室に来てって言っといて!」
「うん、わかった」
そうしてふたりは教室に向かったが、その時になぜか横川さんと目が合った気がした。
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