第70話:Episode 7 years later
あれから7年が過ぎようとしていた。
「っしゃ大物賞金首討伐!!」
「だいぶ経済も安定してきましたね。」
「そうだな。そろそろ暮らしも安定させても…」
「まだ、行ってない場所があります。」
俺達は東側のとある村に来ていた。
“チックビレッジ”
エッグタウンとは正反対の場所に位置する、もう一つの始まりの地だ。
「私は、この家で生まれたんです。まだ部屋がきれいに保たれてる。誰かがずっと手入れをしてくれてるんですかね…」
その部屋は、まるで昨日まで誰かが生きていたのかと思わせるほど綺麗に片付けられていた。
ジェナの顔は悲しげであり、それでいてどこか安堵したような表情をしていた。
「リンタローさん、これが、私のお父さんとお母さんです。お父さんが“ジェドー・エール・アルク”お母さんが“エンヌ・エール・アルク”、2人とも魔法使いだったんですよ。」
ジェナは俺に言う。
「今日は、ここで1泊しませんか?」
「え?」
「ここは元は私のお父さんとお母さんの土地です。村長のところに行って、このことを言えばきっと許してくれるはずです。」
俺達はチックビレッジの村長の家に行くことにしt…
「ジェナ!?本当にジェナなのか!?大きくなったなぁ……」
「お久しぶりです、村長さん。」
「初めまして、村長さん。」
「ん!?」
「紹介します。私の彼氏の、ヤマダ・リンタローさんです。」
「初めまして、ヤマダ・リンタローです。」
「んん!?」
村長の表情は俺を見るなり、厳しいものになった。
「君にジェナの何が分かる?」
これってまさか…
「答えられないのなら、ジェナは諦めてくれ。」
「待ってください、村長さん、私は彼氏報告じゃなくて、昔の家に一泊させていいって話を…」
「なら、なおさらだ。見知らぬ男を村の英雄の民家に泊めるものか。」
これ、めんどくさいやつだ。
言ってることは間違っていないが……
「ジェナさんは…」
「さん呼びですか!?」
「ジェナさんは、カッコいい女性だと思っています。幼いうちに両親を亡くし、その後道場に引き取られ、周りの人間から迫害されて、それでも強くなりたいからと冒険者養成学校に入った。俺にはそんなこと、到底できそうにありません。」
ジェナの顔が赤いから言った俺まで恥ずかしくなってくる。
「………まあ、合格だ。2人であの家に一泊するがいい。」
「ごめんなさい、リンタローさん。あの人、昔っからあんな感じなんですよ。」
「まあでも、一泊させてくれるっていうし、良い人だと思うぞ?」
「ツンデレって言うんですかね…」
振り返ればいろいろなことがあった。
特に3年生、俺達が最も成長した年。
パーティーを組むところから始まり、ダンジョンで少しトラブルがあり、再臨軍の軍勢をジェナが追い払い、合同実習で一躍有名になったりもした。
再臨軍四天王の足止めに成功した後、選抜戦で準決勝まで進出し、その翌日に別の四天王を倒した。
「リンタローさん、今更ですが、あの倒し方はないと思いますよ?」
「一々言わんでよい。」
ディマリプへ行くマジックリニアの宿泊部屋でジェナと互いに初体験をした。
「あの時、なんだか変な感覚でした。最初は…」
ディマリプに着いて、やっと休めると思ったら輪廻に故郷を襲撃されて、「もう勘弁してくれ」と思った。
「そういえばリンタローさん、稀に持っている人が生まれるという“固有スキル”って一体何なのでしょうか?」
「これは、親父から聞いた話だが……」
固有スキルは主に“転生者”という人種に多い、特殊スキルを先天的、または後天的に身に着けている“体質”だそうだ。
「俺は父が“転生者”で、母が“転生者”の子孫だから2つの固有スキルを持って生まれたらしい。」
「そうなんですね。」
「ただ、大昔、渡ってきた転生者が浮気をしまくったせいで、この世界の約2分の1の人が“転生者”の子孫らしいな。」
「ってことは私も…」
転生者の掟なのか、彼らがどこから来たのかは誰も教えてくれない。
転生者はなぜか歴代勇者パーティーに多く、母型の先祖である初代勇者パーティーの魔法使い、5代目勇者パーティーの戦士、6代目勇者パーティーの勇者、そして俺の父である7代目勇者パーティーの勇者…
「スキル発動!!………あれ?やっぱりダメですね。」
「そんなスキルが無くてもジェナは十分強いだろ…」
「いや、でも、そういう技ができたらカッコいいじゃないですか!!」
「お前、今のままでもカッコいいぞ?」
俺が彼女を知ったのは個人戦である1年生の合同実習の時、俺とビルトが同率でビリ2にいる中、ビリをとっていたのが、ジェナだった。
その名前だけは記憶の忘れそうで忘れない場所に安置されていた。
絶世の美女なのに影が薄く、目立つことが一切なかった彼女が、今では誰よりも活躍する上位の冒険者になった。
まさかその美女と大人になってから一緒に世界中を冒険することになるとは思っていなかったな。
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私がリンタローさんを知ったのは、1年生の合同実習のランキング発表の時だった。
当時最下位だった私の一つ上の順位で、直後に「勇者の息子」ということを聞いて失礼だが、「勇者の息子が弱すぎる!」と驚愕した覚えがある。
私はそれ以来、リンタローさんが気になって仕方なかった。
でも、当時の私にはリンタローさんに話しかける勇気は無くて、ずっと遠くから眺めるだけだった。
3年生のある日、私にチャンスが訪れた。
『知ってると思いますが…わ、私はジェナと申します…そ、その、り、リンタロー…く、リンタローさんのパーティーは、て、定員空いてるんですよね?』
この時はリンタローさんのことリンタロー君って呼ぼうとしてたんだ…
ちょっと恥ずかしいや…
次からそれで呼んでみようかな…
この人のおかげで私は強くなれた。
………気がする。
私は、あなたと会えて、あなたと生きて…
幸せです。
「リンタローくん、」
「“くん”!?!?!?!?」
「愛してますよ。」
私は彼の頭を撫で、その手を耳へ、そして顎へ撫でるように移動させて、キスをした。
勇者の息子で最強クラスの固有スキルを2つも持っているのに最弱“だった”リンタローくん…
少し前に「俺も変われたらな」と口に出していたけど、あなたも変わりましたよ?
だってもう、あなたは最弱じゃないんだから。
「ジェナ、俺から一つ、お願いがあるんだ。」
「何ですか?」
「俺と………」
——————————————
「結婚してください。」
——————————————
「喜んで。」
私は、そっと、リリンさんから貰った指輪を外した。
「リンタローくんのも私が外してあげます。」
私はリンタローくんの指輪を咥え、机に置いた。
ベッドの上に流れる静かな期待。月明かりの下、夜は続き、せっかく整えたシーツは乱れていった。
~end~
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