第24話

「よし、よく頑張った。偉いぞ。」


 目が覚めると夜だった。


 目の前にはパーティーメンバーとボブが火を囲んで座っている。


「筋肉をつけるには肉だ。リンタローも食え。」


「あ、ありがとう…ございます………おいしい。これ、何の肉ですか?」


「私の手足の肉だよ!!」


「ブ―――――――――!!ゲホッゲホッ!!え!?」


「私のスキル、“狂獣変化”で変化させた私の手足。スキルが解除されると抜けて人間の腕に生え変わるから龍の手足はこうして焼いて食べることにしたの。」


「念のため、骨は抜いてるぞ。」


 え、いや、なんでみんな平然と食べているんだ?


「一応昔検査したことがあって、狂獣変化で別の生物のものに変化させた部位は遺伝子レベルで変化してるから普通に食べられるらしいよ。ちなみに、狂獣変化で腕を変化させて生え変わる過程で大量のたんぱく質を使うから使用後はこうして何かしら食べないと死んじゃうんだ。」


 この世には、知らないほうがいいこともあるらしい。


 その後、全員でヴァンの龍の手足を完食し、その場を片付けて結界から出た。


 真夜中の草原、見えるのは少し離れたところにある商店街の灯りだけ。


 俺達はボブの火炎魔法で松明に火をつけ、近くのものはある程度見えるようになった。


「いやぁー、疲れた。」


「そうですねー。疲れました…」


 こいつ、絶対疲れてないだろ。


「おーい、お前らついてきてるかー?」


「大丈夫だよー!」


 今、少し前をボブ、ヴァン、ビルトが歩き、その少し後ろをジェナと俺が歩いている。


「リンタローさん、後ろ見てください!!」


「ん?」


 俺は言われるままに後ろを向いた。


「こんなふうに視界が真っ暗だと、世界に私たちだけしかいないような感覚になりませんか?」


「そうだな。実際にそうだったら恐ろしいけど…」


「………リンタローさん、私、あなたと会った時から変わることはできたのでしょうか?」


 ジェナは再び前を向いて俺にそう問いかける。


 何この展開、松明の炎に照らされるジェナがいつもより可愛く見えるんだけど…


「お前は…………」


 お前と会った日、そういえば「私、戦えないんです。」とか、そんな感じのこと言ってたよな…


 正直、「ふざけんな」って思った。


 でも、ダンジョンで鍛えて、一緒に風呂でのぼせて、再臨軍襲撃時に覚醒して、暴走して、抑えて、勇者の残念な戦い方を観察して、修行して…


 お前はあの日からきっと…


「変わったよ。」


「!!!!!!!」


 おい黙るなよ、こっちが恥ずかしくなるだろうが…


「あー!!ジェナとリンタローがイチャイチャしてる!!」


「あら!!」


「ち、ちげーし!!お、俺はただ、ジェナの質問に答えただけだし!!」


「そ、そそそそそそそうですよ!!私はただ、私って成長してるのかなって訊いただけですよ!!」


「フーン…あ、あれ?ボブさん泣いてる?」


「う、うぅ…俺が10年育ててきた愛弟子がついに恋愛か…しかも友人の息子と…」


「だ、だから違うって言ってるじゃないですか!!」


 次の瞬間だった。


「うーん、素晴らしいですね~青春というものは…」


 背後から突然会話に割り込んできたその男にボブは攻撃を仕掛ける。


「素晴らしい速度、さすが暫定世界最強の男なだけある。」


「お前は誰だ。」


「フフフ、私は魔王再臨軍、四天王:速天シュワール。ボブ・ジュート・ジェット、あなたに引導を渡しに来ました。」


「そうか。そういうことならケンタローから話は聞いている。魔王を復活させる過程で一番邪魔なのは勇者パーティー最強の俺だろうとな。」


「話が早いですね。では、大人しく私にその命を…」


「おぉっと、その前に、リンタロー、ジェナ、ビルト、ヴァン、町のギルドに行ってくれ。」


「おや?応援要請ですか?」


「いや、違う。保険だ。」


__ズドォ!!




 まずいまずい!!なんだあいつ、魔力量多すぎだろ!!人の魔力量じゃねえ!!


 それに“速天”ってことはスピード系ってことだよな…


「急げ急げ!!リンタロー、もっと速く!!」


「無茶言うな!!俺のステータス知ってんだろ!!」


 刹那、俺達にとって最悪の事が起こる。


「見つけた。」


__ッッッッッッッ!!


「あれ?もう終わり?ちょっと、勇者の息子、ボブの弟子、聖剣守りの一族の娘がいるって聞いたのに…」


「………俺が抜けてねえか?」


 馬鹿ビルト!!今は死んだふりしとけよ!!


「あら、あなたは一般人って聞いたから弱めで十分って思ってたんだけど、案外そうでも無さそうね。」


「おかげで全然痛み感じねえし、この通り立っていられるよ。」


「ふーん、あなた、戦いがいがありそうね。一回私とヤッてみる?」


「いいぜ、乗った!!いくら最弱職といえども、俺はその辺の冒険者に負ける気がしないぜ!!」


「ば、馬鹿、なんで…」


「あー、なんかイケる気がするんだ!!ヴァン、お前まだ動けるだろ、ジェナとリンタローを引きずってそこの教会に行け。そこで傷を治したらギルドに行って応援を要請してくれ!!それまで俺が時間を稼ぐ!!」


「分かったわ!!」


「ま、待て!!ビルトお前!!」


「気にすんな!!俺は、勇者の友人の息子だぞ?」

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