第19話

「再生魔法〈リプロダクション〉ッッッッッッ!!」


 腕と義足が宙を舞う。


 先程までリンネを圧倒していた父親のだ。


 とっさに再生魔法を自分にかけているみたいだが、できていることは止血程度…


 魔力切れが近づいているのだろうか…


「あまり調子に乗らないことだ。7代目勇者、山田賢太郎。次は首を落とす。あそこにいる君の妻、息子、その友達、商店街の人々に最期に言いたいことは?」


 ダメだ。


 父…


 親父…


「親父!!ダメだ!!」


「リリル、お願いだ。リンタローとその友達を連れてあの山に行くんだ。商店街のみんなは避難してくれ。」


「分かりました。リンタロー、みんなまとまって。」


 親父、ダメだ、死ぬな!!


「これが俺ができるお前らへの最大の感謝だ。」


 頼むからそんな最期みたいなことを言わないでくれ…


「親父ッ!!」


「生まれてくれてありがとう…またな、転送魔法〈トランスファー〉」


 俺達の視界は白い光に包まれ、その光が消えるころにはもう山奥に飛ばされていた。


「母ちゃん!!何でッ!!俺達をここに連れてきた!!俺達だって…」


「これが、あの人の戦い方です。」


「そんな…」


「昔の癖が抜けていないんでしょうね…あの人は、パーティーメンバーの最高聖癒士の蘇生魔法に頼りっきりだったんです。だから、いつの間にかあの人は自分の命を犠牲にすることを前提に作戦を立てるようになってしまいました。」


「おい、今ここにその最高聖癒士はいないんだぞ!?母ちゃん、止めないのかよ!?」


 蘇生魔法はその人が死んでから24時間以内で心臓と脳が揃っていなければならないという条件を満たしていないと使用できない。


 おそらくリンネはそれができないように首を持ち帰るつもりだ。


「おいってば…」


「大丈夫です。今リンタローが言ったことはあの人も知っていることです。今回の作戦はおそらく私に命をゆだねるつもりでしょう。皆さん、見ていてください。あの人の戦い方は姑息なんです。」


 母は俺達にゴーグル型の魔導機械を配った。


「そのゴーグルは遠くで起こっている出来事を見聞きすることができるものです。」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「さて、元勇者、山田賢太郎。君の戦い方は面白いが、相手へのリスペクトが感じられない。勇者として、主人公として、誇れない戦い方だよ。」


 そういう言葉はチートを使って弱い奴いじめて見下しているような人間に言ってほしいな。


「別にいいだろ。俺は弱いんでね、正々堂々お前らみたいなチート使いと渡り合えるような戦い方をしたつもりだ。」


「そうか。じゃあ、そろそろ首を落とす。」


「………なんて?」


「首を落とすと…」


 俺はそれを聴いた瞬間、片腕片足がないまま土下座をした。


「許してください!!俺が悪かった、この町はあんたにやる!だから俺の命は………」


 すると輪廻は少し間を空け、信じられないといった表情で口を開ける。


「失望したよ。勇者、ここまで落ちぶれているとは…この事を君の家族や町の住民が知ったらさぞ………」


__パァン!!


 俺は輪廻の話を遮り、右肩に向かって銃を撃った。


__カランカラン…


 輪廻は刀を落とし、その音が周囲に響く。


「あ、え?」


「リリル!!今だあああ!!」


「なん…だ?」


「俺が何も考えずにあの山にリリルを転送するわけが無いだろ?馬鹿か?馬鹿なんだな?さっきの土下座も、痛がっているフリも、全部演技だよ!」


「だ、騙したのか!?」


「強者と戦う弱者が正々堂々戦えってのか?無理な話だな!!残念だが、勝利は貰うぞ!」


 刹那、山の中腹辺りが光る。弾丸ほどの大きさの隕石魔法がリリルの杖から放たれたのだろう。そして———


__バガァ!!


 その隕石はリンネの足に衝突した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「「「「姑息だなぁ……」」」」


「あれでこそ、私の夫です。」


 いや、なんというか…


 思ってたんと違う。


 勇者の戦い方ってもっと能力でゴリ押したり、絆の力で何とかしたり、努力で身体能力を上げてここまで来た!とかだと思っていたら…


 勝利の決め手が土下座×命乞いで相手を油断させてからの騙し撃ちって…


 そんなことを考えていると、ジェナが言った。


「あの、あれ!!倒れたリンネの下に人影が…」


 俺はもう一度ゴーグルを覗いた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「よし、あとは警察の皆さんお願いしまーす!」


「了解。」


 この町の警察が、吹き飛んだ輪廻の上半身に手錠をかけた。


 今は死んでいるようだが、脳と心臓は残っている。


 さっきの戦いを見た感じ、スキルの発動条件は詠唱らしいし、この状態はスキルを発動できていないのだろう。


 あとでベルにこいつを蘇生してもらって完全逮捕ってとこだな。


 俺が安心して予備の義足を店まで取りに戻ろうとしたその時だった。


「なんだ貴様!!グアッ!!」


「お、おい大丈夫かジャクs…!?」


 警察官が次々と倒れていく。


 リンネの死体の横には女が立っていた。


 眼鏡をかけたスーツ姿のスタイル抜群の長髪の女だ。


「すごい、総督がこんなになってるの初めて見た!!脈もないし、でも中途半端な状態で死んでるみたい。死体にまだ魂が残っている。これを放っておいたものがゴーストか…勉強になるなぁ。」


 中途半端?


 どういうことだ?


「おい、お前、誰だ?」


「あぁ、あなたが総督をこんな目に?勝負は受けないですよ?あなたはかなり強いお方のようなので。それでは。」


 女がネクタイを締めた瞬間、辺りは煙に包まれ、何も見えなくなる。


「持っていかれた…」

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