第18話

 いやおかしい…


 本当におかしい…


 俺の父親の魔力出力は俺と同じだし、何なら魔力量では俺のほうが少し上回っているぐらいなのに…


 親父はリンネと互いに威力がおかしい魔法をガンガン撃ち合いながら何やら話している。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 何年ぶりだろうか、戦うのは…


 魔王を倒してからというもの、俺はリリルと結婚して、双子が生まれて、鍛冶屋になって、勇者としての仕事はいくつかあってもどれも戦闘の依頼じゃなかった。


「お前の話は聞いたことがあるぞ?リンネ。昔ミズナギ・タクミって奴が話してたな。」


「そうか、彼から聞いたのか。」


 ミズナギ・タクミとは、俺が勇者になる前、冒険者をやっていた時代に固有スキル【転生】で異世界から異世界へ転生して人探しをしている男だ。


「お前、固有スキルを持ってるってことは、俺やタクミ、ケンザキと同じ転生者だろ?」


 遺伝した固有スキルは代を重ねていくにつれて能力が劣化していくものだ。


 例えば【全能】は魔法の名前を知らないと使えなくなったし、ケンザキの【通信】は時間制限がついてしまった。【魔法眼】は1000年前までは無限に魔力が尽きないというスキルだったらしいのに今は魔力回復速度が上がるだけの性能になってしまった。


 しかし、こいつのスキル【輪廻】は性能を見るにオリジナル、代を重ねていない。


 スキルの名前からしてタクミの【転生】スキルの類だろう。タクミのことを知っているのも納得だ。さっきこいつが風を起こしたのは謎だが…


「私はタクミ君を探しててね、一度死んだというのに別世界に転生した恋人に会うためだけに旅を続けている。彼も私も、実年齢はもう3桁は優に超えているのにな。」


「だろうな。どうせここでお前を殺しても、また別世界で生き返っちまうんだろ?なら、ここでお前を封印させてもらう!!」


「まあ、がんばれ。」


 タクミは別の異世界で習得したスキルや得物を使って戦っていた。


 こいつも同じような戦い方をするのだろう。


 だが、相手が能力を発揮する前に倒すのが俺のやり方…


 正々堂々、姑息に戦わせてもらう。


『スキルの発動条件を満たしました。』


「罠(スキル)発動!!」


__ズドン!!


「なんだ!?私の腕が爆ぜた!?君、何をしたんだ!?」


 リンネは混乱しながらも爆ぜて吹き飛んだ腕を自己修復する。魔法でもスキルでもない何かを使っている。


「そいつは【罠】スキル、発動条件を自由に設定できて、条件を満たせば、スキルにストックされたいくつかあるスキル効果の中からランダムに1つ、相手に直撃させられる。」


 今回の罠スキルの発動条件は「俺を中心とした半径5ⅿ以内の空間に足を踏み入れる」というものだ。


 対魔王戦でこの条件で戦ってたら強かったかもな…


「ならその条件を見破って…!!」


 リンネが光る剣を何もないところから取り出し、俺に斬りかかろうとしたその瞬間…


『スキルの発動条件を満たしました。』


 今度はリンネの体の周りにワイヤーのようなものが絡まり…


__バチバチバチ!!


 電流を流して消えた。


 急いで俺から距離をとり、体を痙攣させて立ち上がろうとするリンネに今度は俺のほうから歩いて近付く。


「さ、流石勇者と言うべきか…強いね。でもここからは…」


「まだ俺のターンだぞ?」


『スキルの発動条件を満たしました。』


「え?」


 リンネが頑張って立ち上がった場所の足元に深い穴が空く。


 落とし穴だ。


 俺はそれが分かった瞬間、スキルを解除する。


 するとリンネが落ちた落とし穴は穴が塞がり、元の地面に戻ってしまった。


「つ、強すぎる…」


「リンタローの親父さん、お前よりもステータス低いんだよな?」


「そのはずなんだけど…」


 我が子からの尊敬のまなざしが心地いい。


 俺はリンタロー達のもとに歩いて…


「[大気]は【輪廻】する!!」


 行こうとしたその時、リンネは地下で爆風を起こし、埋まっていたその体を再び地表に現した。


 それと同時に…


「聖剣:雷切*紫電一閃*」


__ザン!!


「親父!!」


 これ、まずいかも…

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