第4章:勇者の戦い方

第17話

「やあ、リンタロー君。答えを聞きに来たよ。」


 その男は前に飲食店でジェナと食事をしていた時に突然話しかけてきた奴だった。


 そうか、あれからもう1週間か。


「おい、リンタロー、こいつ誰だよ!?」


「ちょっと怖いわ。逃げましょう?」


 その会話を聞いていたのか謎の男は出入り口をふさぎ…


「失礼、怖がらせてしまったようだね。私はハッピーエンドを探している者だ。1週間前、リンタロー君とジェナさんに質問をしたんだ。普通に生きて普通の死バッドエンドを迎えるか、私と来て最高の死ハッピーエンドを見つけるか…」


 その質問に対し、ビルトとヴァンは即答する。


「「ハッピーエンドで」」


 マジかお前ら…


 俺はこの人についていくとか無理なんだが…


「俺は普通に暮らしていたいからバッドエンドでもいいかな。だってみんなそうなんだろ?じゃあ怖くねーよ。」


 俺の答えに一同が驚くが、謎の男は続ける。


「ジェナさん、君はどうなんだ?」


 ジェナは覚悟を決めた表情で謎の男に言った。


両親天国会える行けるほう。」


 男はバッドエンドを選んだ俺と抽象的な答え方をしたジェナを一瞥すると…


「愚か者めが…」


 突如口調が変わり、それまで隠されていた右手が姿を現す。


 男の右手の甲には「↻」の記号が刻まれている。


「そうか、残念だよ。ハッピーエンドの価値を、バッドエンドの苦しさを分かっていないようだね。」


 待て、これ、やばいやつじゃ…


「ビルト君、ヴァンさん、君たちは賢いよ。何も考えずに直感だけでこの質問に答えられる人間なんてそうそういないからね。」


「「いやあ、それほどでも…」」


「君たちには今から私と一緒に組織に来てもらおう。予期せぬ収穫があった。歓迎し…」


「ほほう、面白いではないか…」


 謎の男の話を遮ったのはガルドだった。


「なんだ?花が喋った?この世界の生き物か?こいつは…」


「貴様、数えきれないほどの世界を渡ってきているくせに我の事はおかしく見えるのか?それにまさか、に属しているのに我の事を知らぬとは…貴様はモグリか?」


 世界を渡ってきた?


 あの組織?


 いったい何のことだ?


「まさか、私の秘密が分かるのかい?」


「まあ、厳密に言えば記憶を見ているだけだが…」


「そうか…まあ今はどうでも…」


「おい、ビルトにヴァンよ、こいつの記憶を見る限り、この男は魔王再臨軍の頂点に立つ男だ。こんな奴について行ったら貴様ら、犯罪者になるぞ?」


 再臨軍の頂点!?


「フッ、フフッ…アハハハハハ!!よく分かったね!!まさかお花に見透かされるとは!!」


 謎の男は笑い出し、自己紹介を始める。


「私は魔王再臨軍総督:輪廻、リンネと呼んでくれ。偽名だ、本名は覚えていないものでね。」


 それを聴いた瞬間、ビルトとヴァンは謎の男、いや、リンネから離れた。


 ビルトはそのままスリングショットをかまえ…


「もらった!!【スリングショット】!!」


 そのまま石をリンネに飛ばした。


 だが、それが通用していたら再臨軍はここまで大きなテロ組織になっていない。


「[大気]は【輪廻】する。」


 リンネの右手の甲の記号が光り、一陣の風が吹いた。


 その風によって石が跳ねかえされたのはもちろん、今俺達がいる鍛冶屋も内側からの気圧に耐えられず、ばらばらに吹き飛んでしまった。


「お、お、俺の店があああああ!!」


 偶然帰ってきた父が店の前で義足と膝をついて絶望している。


「ケンタr…お父さん!!気をしっかり!!」


 母も松葉杖を倒して父に寄り添っている。


「リンタロー、ジェナ、ビルト、ヴァン、お前らはそこで見てろ。勇者の戦い方を見せてやる。」


 父親は自らの店を破壊された怒りで戦闘モードに入った。


 目つきがもう狩る側のそれだ。


 でも…


「親父!!親父も母ちゃんも今片足使えないじゃん!!そんなんで戦えるとは思…」


「リンタロー、戦えるんだな~それが…」

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