第16話

 相手のパーティーはルイともう一人、催眠術師が残っていた。


 しかし俺は彼らと戦うことなくただ洞窟で隠れ続けた。


 勝てるイメージが湧かないような敵にどう戦えってんだ。


 残り時間ずっと結界内の洞窟の奥底で音も出さずに隠れ続けたんだ。褒めてほしいね。


 結果、俺達は学年1位の成績を収めることができた。


 あれから1週間、俺は校内の人気者に…


「みて、あいつが勇敢に戦ったパーティーメンバーを捨てて逃げて最後の最後まで戦わずに洞窟で隠れてた卑怯者よ!!」


「それに実の姉を盾として利用したらしいぞ!」


「勇者の息子が何やってんだ!!」


 ならねーじゃねーか…クソが…


「り、リンタローさん、み、耳を傾けちゃダメです。あの時私が斬られたのは私の不注意でしたし、あなたに責任はありませんよ。」


「そうだよ。私は君の指令をちゃんと聞いていれば死ななかったし…」


「俺もそう思う!うん、思う!!」


 若干1名適当に声をかけてくるやつがいるが…


「そうだよな!!俺に責任なんてないよな!!」


 今日は珍しくパーティー4人で下校していた。


 いつもの商店街、ジェナはスキルを習得し、魔法が暴走する事も無くなった。


 放課後、俺達は武器を新調しようと親父が経営している鍛冶屋に入った。


 出迎えてくれたのは…


 鉢に植えられた変な植物だった。


「いらっしゃい、いらっしゃい!お、貴様らは最近学年1位になったのにもかかわらずそれに見合った評k…」


__ブチッ


「お前、いつの間に帰ってきやがったああああああ!!」


 目の前で嬉しそうにくねくねと動く花を俺は躊躇せずに引っこ抜いた。


「おっと、危ないではないか!!だが残念、その程度では我は死なぬ!!」


 その植物は別の鉢から生えてきてまたくねくねと動き出した。


「はぁ、親父は?」


「ケンタローか!奴は現在、我を留守番係にし、リリルと近くの宿屋で××しているところである!!ちなみにリリンはまだ学校でトレーニングしている!!フハハ、余程貴様に盾にされたことが悔しかったようだな!!フハハハハハ!!」


「うわぁ……聞きたくなかった親のそんな事情………あと姉ちゃんに謝っておこう。」


 俺達が軽く引いている中、ジェナは顔を赤くしながら話題を変えた。


「えぇと、このお花さんは一体…」


 ジェナが、いや、ヴァンも不思議そうな目で、この頭がおかしくなりそうな生物を見る。


「こいつは4、5年前までこの町でマスコットキャラ的な立ち位置にいた元魔王軍幹部、記憶の悪魔、ガルドって奴だ。元魔王軍幹部とはいえ、親父に一度倒されて超弱体化してるから怖がらなくても大丈夫だぞ。」


「我は弱体化はするが死にはせぬ!!我の残機は我の存在を知っている者の数に等しい!!故に我を倒そうものなら先に人類の約半分と心中しなければならぬ!!フハハハハハh…」


__ブチッ


「まずは、どうやってここまで帰ってきたのかを教えろ。」


 こいつは4、5年前、この町に訪問に来た貴族をからかって石化魔法と氷結魔法をかけられ、王城の地下に埋められていた。


「フハハハハハ!!愚かな人間め!あの程度の封印で我を抑えられるとでも思ったのか!!我が植物型悪魔だということを忘れたのか!!土の中は我の最高の住処、4、5年間王族をからかってやったら解放されたわ!!」


 王族も手に負えなくなってこいつを捨てたってわけか…


 待てよ?王城って確か神聖魔法が…


「神聖魔法の結界が張られていたんじゃなかったか?とのことだが、心配無用である!記憶とは生物が環境に適応できるようにするために備わっているもの、我は1年程度あそこで神聖魔法を浴び続けていたので、適応してしまったわ!!フハハハハハ!!」


 こいつ、悪魔なのに…


「悪魔なのに神聖魔法が効かないのか?とのことだが…」


「心を読むなあああああ!!」


 俺達のやり取りを見てビルトが首をかしげる。


「おい、ガルドは記憶の悪魔なんだろ?どうやって…」


「どうやって相手の心を読んでいるのか?か、記憶とは、見聞きして覚えていることだけを指す単語ではない。その時に“どう思ったか”“何を考えていたのか”も記憶として保存される。我の言いたいことが分かるか?」


「うん、分からん。」


「我の悪魔スキルは相手の0.0001秒前までの記憶を見聞きし干渉することができる。対して人が何かを考えてから行動するまでがすごく早いやつで0.1秒程度。つまり、ほぼリアルタイムで、いや、それよりも速く相手の思っていることを知ることができるのだ!!」


「なるほど、分からん。」


 ビルトの思考回路はショートした。


 とにかく記憶から相手の思考を読めるということなのだろう。


「ところで、いつまで嘘をついているつもりだ?」


 突然そんなことをガルドが言い、俺達は互いに目を合わせる。すると…


「貴様だ。ジェナ。貴様が3つ習得している魔法のうち2つを操れない理由、今は体質の副作用と噓をついているそうだが…本当は別の理由があるな?」


 そういえば実習の時、ルイと何やら話していたな。


「私が魔法を操れない理由は…」


 ジェナが魔法を操れない理由は、体質の副作用ではなく、トラウマによるものだった。


 ジェナの話は残酷だった。


 親は殺され、ボブに拾われたのは良かったものの、小さい頃からルイにいじめられ、豪族の道場の門下生からもいじめられ、親を馬鹿にされ、やり返せば袋叩きにされ…


「そんなわけで私は、気がついたら魔法の操作ができなくなってしまったんです。せっかく両親に教えてもらった第1習得魔法の火炎魔法も、第2習得魔法の電撃魔法も、第3習得魔法の疾風魔法も…全部、忘れてしまったんです。それでまた更に彼らのいじめはエスカレートして、残ったのは師匠から教わった体術と知識だけの魔力操作術………」


「ボブさんは、何もしてくれなかったの?」


 ヴァンが訊く。


「ボブさんは毎回毎回私を庇ってくれました。ルルさんも同じです。でも、そのせいで2人は息子にも門下生にも話を聴いてもらえなくなり、道場での立場を失ってしまったのです。」


 ルルさんとは、父のパーティーの剣王と呼ばれる役職にいた剣士だ。


 ボブとルルは夫婦で豪族の道場を継いだ。


「ジェナ…」


「これまでずっと、噓をついていて申し訳ございませんでした…」


「謝るなよ、嘘をついててもついてなくても現状は変わらないんだし。」


「そうだぞ、それに、そんな噓、別に俺達は何とも思わねーよ。」


「そうよ。女は噓をついて美しくなるんだから!!」


 ヴァンは話を理解していなさそうだが、まあ、いいか…


__ガチャ


 重い空気が漂う店の中、突如として扉が開いた。


 そこには見覚えのある謎の男が立っており、聞き覚えのある声で話し始めた。


「やあ、リンタロー君。答えを聞きに来たよ。」

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