第14話

 ジェナが退場した。


 あの胸糞男に一発強いのを食らわせたかと思ったら効いていなかった。


 ここからその男を見ると、何か言っているようだった。


 俺は遠くの話し声が聞こえる【地獄耳】スキルを発動する。


「……まさかあんな庶民ごときにこの聖剣を使うことになるとは…この剣が無ければ今頃俺の腹は泣き別れだったな。」


 聖剣?


 大陸東端の聖剣といったら…


 十束の剣しかないだろ…


 聖剣は自己修復能力を持っており、どれだけ折れてもどれだけさびてもどれだけ刃こぼれしようと再生する。


 もっと厄介なのが聖剣の効果。


 聖剣の効果はそれぞれ違う。十束の剣という聖剣の効果はその剣でつけた傷は一生治らないというもの。


 決闘結界には時間魔法が掛けられており、死ぬとその肉体は記憶以外すべての情報を結界に入る前までの状態にリセットされる。だから今回斬られたビルトとジェナは大丈夫なはずだ。


「リンタロー、これどうするよ…もう私たちしかいないよ?」


 ヴァンがそんなことを…


「ヴァン、狂戦士のスキルで理性保てるやつ無いの?」


「そんなものないよ。さっき野生の勘が働いたのもスキルの影響で体質が変化して理性保ったまま能力の一部が残ってるだけだから…」


「狂戦士になって俺のこと殺しにかからないってのは…」


「約束はできないよ。」


「ちなみに、スキル発動中はどのくらいの範囲で勘が効くんだ?」


「【狂戦士バーサーカー】だけなら2㎞、【狂獣変化きょうじゅうへんげ】も追加で使うと10㎞圏内ならいくらでも。」


「ヴァン、【狂獣変化きょうじゅうへんげ】だけ発動ってのは…?」


「やったことないよ。私の一族では【狂獣変化きょうじゅうへんげ】の効果は【狂戦士バーサーカー】の効果を強化する程度の能力しか備わってないって教えられてるし…」


「一応やってみてくれ。」


「分かった!【…」


「ちょ!!ルイの近くで発動してくれ!理性保てたらグッドサイン、無理だったら俺が止める!!」


「おけ~!」


 物は試しだ。


 ヴァンはルイの一歩手前まで行き…


「おいそこまで行けとは言ってな…!!」


 その状態でスキルを発動する。


「スキル発動!!【狂獣変化きょうじゅうへんげ】!!」


 同時にルイは聖剣の技を出す。


「十束の剣:槍剣そうけん


__ドスッ


 ヴァンは退場した。


 結局理性は保てたんだろうか?


 ってかちょっと待て、生き残ってるの…俺だけ?


 え、ヤバイ…


 どっかに隠れないと。


 俺は宝を大量に入れたかごを背負い、背の高い草むらに隠れることにした。


 そして暗黒魔法の収納から狙撃銃を取り出し、ルイに照準を合わせる。


「まずは普通に…【ショット】!!」


 今、ルイと俺の距離は200mほど離れている。


 だが、ルイは俺の弾丸を見逃すはずがなく…


盾剣じゅんけん


__キンッ!!


「こっちにいるな?」


 弾道から気付かれた!!


 俺はもう一度移動し、今度は背の高い丘で狙撃銃を構える。


「今度は透明魔法をかけた弾丸で…【ショット】!!」


 今はルイがどうやって銃弾を見ているのかを観察する。


 今度は完全に後頭部をとらえた。


__キンッ!!


「ほう?透明魔法か。次はどう来る?」


 俺は位置がバレないように移動してまた銃を構える…と


「あれ、リンタローだ…おーい!!ルイ!!ここにリンタローいる!!」


 リリンに遭遇した。


 まずい、非常にまずい。


「呪文斬撃魔法〈ギロチン〉」


 俺はルイの斬撃が飛んでくるまでのコンマ数秒の間に脳みそをフル回転させ…


「ちょ!?」


__ザンッ!!


 無言で実姉を盾にした。


 人は命の危険を感じると肉体が何倍にも強化されるらしい。


 この結界内での死は無効化される。


「許せ、姉よ…」


 高台から見渡す限り、結界内には俺とルイしかいないように感じる。


 しかし、俺は騙されない。


 おそらく俺は、何かしらのモンスターに包囲されている。

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