第2章:魔王再臨軍に備えよ

第6話

「治療が完了しました。」


 俺達は無事にダンジョンから脱出してすぐさま教会に駆け込んだ。


 プリーストにジェナの耳を治してもらうためだ。


 ついでにギルドへダンジョンにドラゴンの変異種がいたことを報告した。


「俺、耳塞いどけって、言ったよな?」


「ご、ごめんなさい。」


 俺達はまた2人で帰路に就いていた。


 辺りが真っ暗な闇に包まれている中、いつも通る商店街だけは昼間のように明るかった。


 今日もパン屋の横を通り………


「いやあ、お姉さん、今日もお美しゅうございます!!」


「あ、ありがとう、ございます?」


 …………


 知らない。


 なぜか俺の記憶にこいつの顔が刻まれているが、俺は知らない。


 ビルトなんてやつは今の俺の記憶には存在していないはずだ。


 パン屋のお姉さんの店員さんはビルトにナンパされ…


 弟の店員さんは俺の姉にナンパされる…


 すいません。


 俺の知り合いが本ッ当にすいません。


 俺とジェナはパン屋の前を見てみぬふりをして通り過ぎた。


「で、では、わ、わわ私の家はこっちなので…」


「おう、じゃあまた学校で」


 ジェナと別れ、俺は1人で家に帰る。


 ジェナは商店街の裏に家を借りて1人で暮らしている。


 俺は、街から少し離れた山奥のダンジョンで、家族と暮らしている。


 この帰り道が俺にとって途轍もなく怖いのだ。


 真っ暗闇、しかも山奥…


 俺はここに生まれてからずっと住んでいるが、未だに慣れる気配はない。


「ただいまー。」


「おかえりなさい。お風呂沸いてますよ。すぐ入っちゃってください。」


 暗闇に怯えながら家に入ると、母がそう声をかけてきた。


「ありがとう母さん。」


 俺は父が作った露天風呂に浸かることにした。




「あったけぇ…」


 お湯に浸かると体中の疲れが一気に抜けていった。


 お湯ってどうしてこんなにも心地いいのだろうか?


 そう思いながら今日の疲れを全てお湯に溶かしていた、その時だった。


__ズドォ!!


 町の東側からだろうか。


 鈍い爆発音がこの町を覆った。




 翌朝、商店街に入る前の道、俺の通学路が通行止めになっていた。


 通行止めのテープの向こうにはフル装備の王都騎士団、王族直下の兵士団、王都魔法研究所の研究員が何やら深刻そうな顔で話し合っている。


 一般人の俺には関係ない事だろう。


 俺は見てみぬふりをしてその場から立ち去り、遠回りの畑道で学校へ向かうことにした。


「あれ?リンタローさん?登校の時の道こっちだったんですか?」


 畑道を歩いているとジェナに会った。


「いや、それが俺の通学路が閉鎖されててさ…そういえば、ジェナは行きと帰りで通学路違ったんだっけか?」


「はい、行きはよく太陽が当たる畑道で行くことにしてます。逆に帰りはより明るい商店街を通って帰ることにしてます。」


「畑道って暑くね?夏場とか。」


「それが意外と涼しいんですよ。この辺はよく風が通りますし、農家さんが畑に水をあげているので気化熱で暑さは和らぎます。」


「へぇ~。でも、こっちの道は学校まで遠いんじゃ…」


「遠いけど景色を楽しめていいじゃないですか。」


 景色を楽しむ…か。


「ほら、右側見てください。植えられた麦が風に吹かれてさわさわ音が鳴っているでしょう?少し上には蝶が飛んでいて、畑の手前の蜜を吸う。どうですか?少し癒される感じがしませんか?」


「……確かに、この道も悪くないかもな。」


 俺は今まで、通学路の景色を楽しむなんて考えたこともなかった。


 長く続く畑道、慣れない道から学校に行くというのはなんだか新鮮だ。


「ほら、着きましたよ?」


「え!?もう!?」


 今日の通学路はなんだか短かったような気がする。


 実際にはいつもよりも長い道を通ってきたというのに…


 俺達はいつも通りの校門から中に入ろうと…


 したその時だった。


「リンタローさん、校門が閉まっています。」


「本当だ…まさか俺達遅刻…したのか?」


「大丈夫です。いつもより少し遅いだけで遅刻まではあと10分あります。」


 俺達は校門の隙間から学校内を覗き見たが、誰も来ていない。


 校門をもう一度見てみると、そこに張り紙がされていた。


『本日は臨時休校とさせていただきます。一応、各家庭に連絡はしておきましたが、万が一来てしまった生徒の皆さんのために、ここに張り紙をしておきます。』


 何があったのだろうか?


 少なくとも、昨日の夜の爆発音と関係はあるのだろう。


「臨時休校…ですか…ラッキーと言うべきか、アンラッキーと言うべきか…」


「俺はラッキーだと思う。さて、何して遊ぼうかな!やっぱ商店街で…へぶぁ!!」


 突然、俺の顔面に新聞紙が飛んできた。


 今日の朝刊だ。


 俺は興味本位で新聞を開いた。


『エッグタウン商店街一時閉鎖、学校は休校に…』


 俺の目に飛び込んできたのはそんな記事…


 エッグタウンとは、俺たちが住んでいるこの町の事だ。


「こ、これって…リンタローさん、ここ読んでください。」


「なになに?」


『最近勢力を拡大している魔王復活派武装集団、魔王再臨軍が昨日、エッグタウンの役所に伝書鳩を送った。手紙の内容は、商店街に20個の爆弾を仕掛けたというものだった。昨夜、すでに1つの爆弾が爆発しており、役所は今日から1週間、エッグタウンの各施設を閉鎖すると発表した。また、地域住民に対しては、できるだけ外出を控えること、やむを得ず外出する際は絶対に1人で行動しないよう呼び掛けている。』


「…ってことは明日から1週間、学校がない!!遊べるぞ!!」


「とはいっても、外出はできないようですが…」


 ダメじゃん。


「………帰るか。」




 数分後、畑道を通って帰り、何事もなくジェナの家に着いた。


 だが、そこで問題が発生した。


 ジェナの家は商店街の裏にあるため、商店街と一緒に閉鎖されていたのだ。


「騎士の人に相談してきます。」


 現在、閉鎖されている区域は商店街とその付近、そしてエッグタウンの各学校。


 騎士の人曰はく、これから閉鎖区域は広がっていくだろうとのこと…


 町に爆弾が仕掛けられたんだ。このくらいは普通だろう。


「…リンタローさん、その、とても言いづらいのですがお願いがあります。」


 ジェナが大きなトランクケースを持って戻ってきた。


 普段から頬が赤いジェナはいつも以上に頬を赤く染めて俺に言った。


「り、リンタローさんの、い、いい家に…その、制限が解除されるまで、えっと、と、とっと、泊めて頂いても、よ、よ、よろしいでしょうかッ…?」


「はいよろこんで」


 間髪入れずに俺はそう言った。

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