第3話

 数時間後、制服から冒険者の戦闘服に着替え、学校の校庭に集合した。


「はい、というわけで、どこのパーティーにも入らなかった狂戦士のヴァンディアは、リンタローのパーティーに追加、じゃ、今日の実習を始めていくぞ。」


「あ、そうじゃん、今日までにパーティー作らなくちゃいけないの忘れてた!」


 まじかこいつ


「まずは、今から3分だけ時間を取るから互いに自己紹介をしろ。パーティー戦で最も大切なのは仲間を知ること、仲間のプロフィールは常に頭の中に入れておけ。いいな。特にヴァンディア、今度は忘れるなよ?」


「はーい。じゃあ、私からでいいかな?」


「「「どうぞ」」」


 褐色の肌と猫のような青い目を輝かせた巨乳のツインテールの女は嬉々として自己紹介を始める。


「私の名前はヴァンディア・ヴェイル・ヴァルグリム、呼び名はヴァン、職業は狂戦士で一応大陸南端の聖剣巨人剣を守護するヴァルグリム一族の長女、あ、持ってるスキルのせいで複雑な情報はすぐに忘れちゃうけど、よろしくね!」


 …ちなみに、こいつの1年と2年の頃の成績は個人戦では学年トップ、団体戦では学年最下位という超個人戦特化型の冒険者だ。


 まあこんな感じでしばらくして全員の自己紹介は終わったのだが…


「よし、じゃあ早速実習といこう。今日の実習は対人戦想定訓練だ。今から冒険者修練場に移動し、そこに30体のゴーレムを放出する。パーティーメンバーと連携してそのゴーレムを3体捕獲しろ。3体捕獲できたパーティーから下校だ。いいな!」


 実習の教師が言い終わると同時、俺達の体は森の中にある大きな窪んだ土地にできた修練場に転送された。


「よし、まずは作戦会議だ。」


 とは言ったものの、このバランスの悪いパーティーでどう戦えばいいんだか…


「あ!ゴーレム見っけ!!スキル発動【狂戦士バーサーカー】×【狂獣変化きょうじゅうへんげ】」


「ちょっ!!まっ!!」


 刹那、ヴァンの肉体が猛獣のように変化する。


「グオオオオオオオ!!」


 あ、これ、ダメなやつだ。


 この実習の内容はあくまでゴーレムの捕獲であって、破壊ではない。


 予言しよう、あいつは間違いなくゴーレムを破壊する。


「おい!リンタロー!どうすんだよ!!あれ止められるやつなんてこのパーティーに…」


 その瞬間、俺達の視線は同じパーティーのジェナに向けられた。


「え、えっと、私、おおお臆病で、た、たた、戦えないんです…」


 だから何のためにこの学校入ったんだよ…


「仕方ねえ、ビルト、あれ止めてきてくれ。」


「無理だな。あんな速い物体、俺のスリングショットじゃあ狙えねえよ!!」


 こいつは何を勘違いしているのだろうか?


「何もあれを撃てなんて言ってない。で、数秒拘束するだけで構わない。」


「ふ、ふざけんじゃねーよ!!ば、馬ッ鹿じゃねえの!?俺の職業、戦える冒険者職と呼ばれる職業の中で最弱のスリングユーザーだぞ!?遠距離特化型の最弱職だぞ!?アーチャーにも届かねえ最弱職だぞ!?」


「でもお前、俺より体力レベル高いじゃねえか。」


「おい!!それはお前の数値が低すぎんだよ!!あいつの体力レベル知ってるか!?数値が高すぎて測定不能を表す 10(+)だぞ!!そんなのに、一般人に毛が生えたような俺が、戦いに行くのかよ!?死ぬわ!俺死ぬわ!!」


 ちなみに、この修練場には修練結界という特殊な結界が張られていて、この中で致命傷を負ったらすぐに町の教会に転送され、修復、蘇生させられるような仕組みになっている。


 それでも死にたくないのは当然か。じゃあ、奥の手といこう。


「………ごめん、そうだよな…俺、美人アルバイトが働いてる商店街のパン屋の割引券、お前に譲ろうとしたんだけどな…」


「だ、いつ誰が行かないなんて言った!!行ってやるよ!!行けばいいんだろ!!」


 今日の雑学

 ビルトは美女の情報を流せばどんな要求でも聴いてくれる。


「ぎゃああああああ!!痛い!!おま、嚙みつくなあああ!!」


「よーし!!ビルト!!そのまま、そのまま拘束しておいてくれー!!」


「早くしろおおおおおお!!」


 俺は暗黒魔法の穴から父から渡されている麻酔銃を取り出した。


「【ショット】!!」


 バシュッと銃口から針が飛んでいく。


 針はそのまま飛んでいき、ヴァンの首に見事刺さった。


 ヴァンは一瞬で眠りに落ちた。


 俺はビルトの元まで走った。


「大丈夫か?ビルト」


「んなわけあるかよ…俺、危うく死ぬとこだったぞ…幸い、こいつが倒したゴーレムは機能停止してるだけで壊れていないようだが…」


「そいつは良かった。じゃあ、あと2体捕獲して持ち帰ればいいわけだ。」


「キャーー!!」


 安心したのも束の間、遠くからジェナの叫び声が聞こえる。


 ジェナを置いて走ってきたのを忘れていた!


「ジェナ!!大丈夫か!?」


「たす、助けてください!!」


「おう!今助け…」


 俺は今にもゴーレムに殺されそうになっているジェナを助けようと…


「〈フレイム・ブロー〉!!」


 同時、ジェナは火炎魔法で手に炎を纏わせ、ゴーレムの足を殴った。


 その攻撃で足が折れたらしく、痛覚を感じないはずのゴーレムがうずくまっている。


「「ェ」」


 俺とビルトの口から、何とも間抜けな声が漏れた。


 俺の心配を返せ…

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